東京高等裁判所 昭和37年(ネ)736号 判決
ところで本件における主要な争点は、以上のように一時払方式(ただし日掛Dに改められるまでの分)により受け入れられた金銭に対し、一定割合をもつて支払われた優待費が所得税法第九条第一項第一号の「預金の利子」に該当するものであるか否かに在る。
一般に預金とは法人に対する消費寄託金であると解され、消費寄託は法律上消費貸借と同じように取扱われるのを原則とし、ただ後者が通常借主において金銭等を利用する必要があるために締結されるのに反し前者が主として寄託者において目的物を預けておく利益のために締結される点に両者の機能上の差異があり、この差異は、返還の時期が約定されていないときには寄託者が相当の期間を定めることを要せず何時でも返還を求めうる点(民法第六六六条但書)にあらわれているといわれている。しかし銀行取引にみられるように、その預金は銀行の運用資金の主要部分を占め銀行においてこれを受け入れるのは銀行自身の利益のためであり預金者のためだけに預金契約が結ばれるのではないし、また右契約の内容も近代的な銀行経営の発達に伴ない定型化された約款によつて細部まで規整されるに至り、前記法律的差異は実際上失なわれているのが普通である。したがつて消費寄託と消費貸借との法律的概念のみを手がかりとして預金の実態を把握することは困難であり、むしろ預金の経済的実質を捉え、それによる収益が所得税法上所得の一類型として規定され、これに対する所得税について特殊な徴収方法が定められている本来の趣旨を理解することによつてはじめて同法にいう預金の意味を把握しうるものと考える。しかるところ、法人が不特定多数の者から法人所定の定型的約款によつて金銭を受け入れこれを自己の運用資金の主要部分とするとともに、不特定多数の者がいずれも金銭の保管の安全性その払戻しの確実性を挙げて法人への信用に委ねて金銭を預け入れ、通常これに対する一定割合の金銭(利子)の支払を受けるところに預金の経済的実質があり、所得税法はこの不特定多数者に対する定型的、継続的かつ集団的な金銭(利子)の支払という特質に着目し、この金銭をこれと同一類型の公、社債の利子および合同運用信託の利益等とともに利子所得に定型化し、その支払者に所得税の源泉徴収義務を課しているものと解される。されば右のような経済的実質をもつものが所得税法上の預金の概念に包摂されるというべきである。
かような観点から、控訴会社における冒頭記載の株主相互金融方式による業務内容と引用にかかる原判決認定を含む前記認定事実とを併せ検討すると、日掛月掛方式による場合にあつては、いわゆる株金額が事実上分割して払込まれ、全額払込済みのときは何時でも株式の時価ではなくして払込金額相当額がこれに対する確定割合による金銭とともに支払われる点において、すでに預金の要素を含みつゝも、なお掛金をする者が株主となる法的形式を採つているのに対し、日掛Dに改められる以前の一時払方式にあつては形式的な株主たる地位さえも与えられず、従つてこの方式によつて受け入れられた金銭は前記の意味で全く預金としての実質を具備しているものと認められる。すなわち控訴会社は当初から右方式により金銭を払込む者に株式を取得させる意思がなく単に銀行預金の利率よりは遥かに有利な確定利息を附して払戻すべき旨を告げて申込を誘引し、利殖のみを欲する多くの世人がこれに応じて株主となることは全く考慮せずに払込をしていたものであり、また実際にこれらの者に対する株式の譲渡が行われた事実の存しないこと、しかもこのようにして受け入れられた金銭は、主として、控訴会社が他の融資希望の株主等に対してなす金銭貸付業務のための資金に供されていたこと、さらに右金銭受け入れに対し控訴会社より担保の供されたことはなくただ控訴会社の信用のみが払戻の保証となつていたことが前記の業務内容および各認定事実に照らし明らかであつて、これらのことは、払込金がさきに述べた預金の実質をもつことを示すものにほかならない。したがつてまた右金銭受け入れ後六ケ月後またはそれ以内にこれに対する年二割四分ないし三割の割合の確定利率で支払われた優待費名義の金銭は実質上預金の利子であつたと認められる。
控訴会社が一時払の方式により受け入れた金額につき書類上株金充当資金若しくは株主借入金なるが如く装い(乙第一号証添付別紙七参照)、また右金銭に対し一定割合をもつて支払う金銭につき株主優待費なる名目を用いていたのは、貸金業者である控訴会社(創立当時控訴会社が貸金業の届出をしこれを受理されたことは原審における証人石崎次三郎および控訴会社代表者三善清胤本人の各供述によつて認められる)が貸金業等の取締に関する法律第七条の規定を潜脱するために用いた方便にすぎなかつたことが先に認定した事実関係により推認しうるところであるから、これまた一時払の払込金を預金と認定する上の支障となるものではない。
控訴人は、所得税法上の預金とは銀行、相互銀行、信用金庫等法律により免許または認可されて設立された金融機関が取扱うものに限られる旨主張する。しかし預金の概念は銀行の概念に先行しこれとは別個に存在するものであることが銀行法第一条、第三三条の規定等に徴して窺われ、また所得税法上の預金が右の如き金融機関において取扱われる預金に限定されるべき事由を見出しえないから、右主張は採用し難い。
さらに控訴人は、一時払方式により受け入れた金額に対し一定割合で支払つた優待費は、現行所得税法の全く予想しなかつた所得類型であつて雑所得の範疇に入れるほかはなく、これについて優待費の支払者に所得税の源泉徴収義務を課するためには、新たな法的根拠を必要とする旨主張する。
株主相互金融方式による金融業が所得税法施行後の昭和二四年頃から行われるようになり、一時は庶民に有利簡便な利殖融資の方法として世上に喧伝され巨額の資金を吸収したこと、昭和二八年三月三日漸く控訴人主張の国税庁長官通達が発せられたことはいずれも当裁判所に顕著な事実であり、また原審における証人渡辺行雄および控訴会社代表者三善清胤本人の各供述によれば、控訴会社の成立した昭和二六年四月頃から昭和二八年四月頃までは右優待費に対する課税に関し所轄徴税官庁より何等の調査決定もなく、同年七月一五日に至り始めて源泉徴収利子所得税の納税告知処分がなされたことが認められる。(前記通達が発せられるまでは税務当局において株主相互金融方式による金融業を営む株式会社の支払う優待費を雑所得として取扱うべきものとの方針を確定していたと認むべき証拠はない。)このように株主優待費という名称を付された所得の形態が実質は預金の利子と目すべきであるにかかわらずその発生後暫くの間は課税の実務上預金の利子としての取扱を受けなかつたとしても、その実体が預金の利子にほかならない以上、これに対応する徴税手続がとられるに至つたのは当然であつて、それは法規によらないで新たに租税を課することでないのは勿論である。したがつて、前記通達中「株主相互金融株式会社が当該株式会社の株主から預つた金銭は法人に対する消費寄託と認め、これの対価として受ける所得は所得税法上の利子所得として課税する」旨指示した部分はすくなくとも右優待費名義の金銭に関する限り、妥当な結論を示したものであり、右通達の趣旨に基く課税はもとより法の根拠にもとづく適正な処分である。そして右優待費が利子所得に該当する場合には、その支払をなした控訴会社が所得税の源泉徴収義務を負担することは所得税法第三七条に明定されているのであるから、本件納税告知処分が租税法律主義の原則に違背する旨の主張も採用しえない。
(奥野 萩原 真船)