東京高等裁判所 昭和37年(ネ)760号 判決
一、被控訴人は、本件代物弁済契約は被控訴人の窮迫に乗じてなされた暴利行為で公序良俗に反し無効であると主張するので、この点について判断する。
証拠を綜合すれば次の事実を認定することができる。即ち
被控訴人は、昭和三三年三月、被控訴人の長男の大学入学のための費用を調達するため、やむを得ず訴外星野敬作から同年四月九日金一五万円を月利七分で借受けその頃右星野が本件不動産に第二番抵当権(第一番抵当権者、住宅金融公庫)を設定し、その登記をすると共に停止条件付代物弁済契約に基く所有権移転請求権保全の仮登記をなした。而して被控訴人は右借金の貸付手数料として金三、〇〇〇円利息として昭和三四年八月迄一ケ月金一万五〇〇円宛合計金一七万八、五〇〇円(天引利息を含む)を支払つたが、右星野は昭和三四年九月六日に至り突如として被控訴人に対し右元利金の返済を迫つた。被控訴人としては月七分という高利であつたので、資金さえあればこれを返済したかつたが、金銭に窮し、返済することができなかつたので、右星野は被控訴人に対し控訴人を紹介し、控訴人から借受けた金員をもつて星野に対する債務を弁済することを要求した。そこで、被控訴人はやむを得ず前記一において認定したとおり同年九月一〇日控訴人から金二三万円を月利六分弁済期同年一一月九日の約で借受け、本件不動産に第二番抵当権を設定し、且本件不動産につき停止条件付代物弁済契約を締結したが、その際、控訴人に対する利息及び手数料として各金一万三、八〇〇円、右星野に対する債務の元金として一五万円、其の他を差引かれ、残金(約五万円の計算となる。原審における被控訴人本人の供述中残金は二万余円とある部分は採用できない。)を現金で交付され、翌一一日付で右星野と被控訴人間の前記抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全仮登記を抹消すると同時に前記一認定のとおり、第二番抵当権設定登記及び代物弁済契約に基く所有権移転請求権保全の仮登記を了した。その後、被控訴人は右元金二三万円に対する利息の支払を怠つたため、控訴人は被控訴人に対し右利息の支払に充てるため、昭和三五年一月三〇日金二万三〇〇〇円、同年六月一四日金六万七、〇〇〇円を夫々貸付けた。又被控訴人が前記のとおり第一番抵当権を設定していた住宅金融公庫からの借入金は昭和三五年八月二六日現在においては少くとも金四六万三、二七八円に上つていた。而して、本件不動産の価格は、昭和三五年九月一日現在において合計約金一五六万五、九〇〇円であり、(右認定に反する乙第六号証及び原審証人佐藤恒治の証言は前顕甲第九号証に対比するときは、にわかに措信できない。)従つて、本件代物弁済契約が締結された昭和三四年九月一〇日現在においては右を稍下廻るものであつた。
以上の事実を認めることができる。
(一) 右認定の事実によれば、控訴人は被控訴人対し、元金二三万円、利息月六分、弁済期二ケ月後の債務について、弁済期に右元利合計金二五万七、六〇〇円の支払を怠るときは時価約金一五六万円の本件不動産の所有権を移転する旨の停止条件付代物弁済契約を締結せしめたものであり、右元利金の額及び本件不動産の価格のみより見れば、右代物弁済契約は公序良俗に反する暴利行為たるの観を呈しないでもないが飜つて考えるに、(イ)、被控訴人が控訴人から前記金二三万円を前記の様な条件で借受けるに至つたのは、訴外星野から、同人の被控訴人に対する元金一五万円の債務の支払につき厳重な督促を受け、その支払に窮した結果右星野の斡旋により同人に対する右債務の支払に充てるために借用したものであつて、しかも右星野に対する債務の利息は月七分であつたのに対し、控訴人に対する債務の利息は月六分でその間月一分だけ低率であり、(ロ)又控訴人においては、前記二三万円の貸金の弁済期は、貸付後二ケ月の約であつたにも拘らず、右弁済期においても直ちに代物弁済実行の挙に出でず、一ケ年後に至つて始めて代物弁済を実行しているものであり、しかも、その間被控訴人が右二三万円の債務の利息の支払に窮するやその支払に充てるため二回に亘り合計金九万円を融通しており、(ハ)、被控訴人が第一番抵当権を設定していた住宅金融公庫に対する残債務は、昭和三五年八月二六日現在で少くとも金四六万三、二七八円あつたが、その頃控訴人は被控訴人に代つて右債務を弁済しており、しかも右立替弁済した分について更めて被控訴人に請求する意思がない(右立替支払分につき更めて請求する意思がないことは当審における被控訴人本人尋問の結果により認められる)のであるから、右(イ)乃至(ハ)の事実に鑑みるときは、控訴人が被控訴人との間に本件停止条件付代物弁済契約を締結したのは、被控訴人の窮迫の事実は免も角として、その窮迫に乗じ不当な利益を獲得する目的の下に行われたものであるとは到底認めることができない。被控訴人の手取額が名目上の債務額に比し極めて少額であるのは、訴外星野に対する債務額を控除したことが主たる理由であるから、手取額が僅少であることも本件代物弁済契約が被控訴人の窮迫に乗じて不当な利益を獲得するためになされたものであるとする被控訴人の主張を裏付ける事由とはならない。結局本件代物弁済契約は不法の動機を欠くものといわなければならない。
以上(一)及び(二)掲記の理由により本件代物弁済契約は公序良俗に反する暴利行為であると認めることは出来ず従つて被控訴人の暴利行為の抗弁は理由がない。
二、次に被控訴人の要素の錯誤の抗弁について判断する。
被控訴人は利息制限法超過の利息を支払つた場合、その制限超過分は当然元本に充当されるものとして立論しているが利息制限法の制限超過分も、任意に支払われた以上利息に充当されるべきものであると解すべきであり、被控訴人の星野敬作に対する制限外利息の支払が任意になされたものであることは前掲乙第五号証その他の証拠によりこれを認めることができるから、被控訴人主張の要素の錯誤の抗弁は、爾余の点についての判断をまつ迄もなくこの点において失当である。
(小沢 池田 中田)