東京高等裁判所 昭和37年(ネ)901号 判決
仮りに右石川次男が前記賃借権を承継したとしても、被控訴人自認の如く、原審口頭弁論期日に右石川次男において控訴人の本件建物収去土地明渡請求を認諾したこと当裁判所に顕著であるから、これにより右賃借権は放棄されたものと認むべきである。
被控訴人は、「右認諾が賃借権の放棄を意味するとしても通謀虚偽表示として無効であるのみならず、仮に然らずとしてもこれを以て被控訴人に対抗することはできない。仮に右主張が理由なしとしても、本件明渡請求は、被控訴人の権利、利益を害する目的で本件土地を買受けた上右請求に及んだものであるから、権利乱用である」。旨主張する。しかし、前記石川次男が控訴人と相通じて賃借権放棄の虚偽の意思表示をしたものと認むべき証拠はない。また、前記石川次男の本件土地賃借権放棄の結果、被控訴人の本件建物賃借権が事実上害されることになるのは、被控訴人の居住権保護という立場から見れば不都合であること勿論であるけれども、本件の場合被控訴人の居住権は、いわば前記石川次男の土地賃借権に依存しているのであるから、借家法四条に類するような特別の保護規定のないかぎり右石川次男の賃借権消滅によつて影響を受けるのは止むを得ないのであつて、同人の土地賃借権放棄に拘らず、同人所有建物の賃借人たる被控訴人がなお本件土地占有の正権原を有すると認めるが如きことは、解釈の限度を超え、到底許されないものといわざるを得ない。
(菊池 川添 花淵)