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東京高等裁判所 昭和37年(ラ)29号 決定 1962年5月14日

千葉相互銀行

事実

抗告人千葉相互銀行は抗告理由として、

一、原決定は本件物件の最低競売価格が金三十八万三千七百円で、抗告人に先立つて不動産上の負担及び手続の費用を弁済して剰余のある見込がないと言い、右決定にいうところの不動産上の負担とは申立外加瀬万蔵の債権額金四十万円の債権を指称するものであるが、同債権は抗告人の申立によつて、右裁判所の仮処分決定によつて、一切の処分を禁止されているものである。従つて、民事訴訟法第六五六条の関係では、申立外加瀬万蔵の債権は不動産上の負担に該当するものではない。

二、抗告人は相互銀行法に基く法人であり、本件物件は何れも農地法に基くいわゆる農地であつて、抗告人は本件物件を買い受けることができない。にも拘らず、原決定が抗告人に対して民事訴訟法第六五六条によつて「自ラ其価額ヲ以テ買受クベキ旨」の申立を命じ、これをなさなかつたからといつて競売開始決定を取り消したことは、抗告人に違法な行為を強制するものであつて、そのこと自体が法律に反することは明らかである。

と主張して原決定の取消を求めた。

理由

抗告理由第一点について、

原審は、本件競売不動産の最低競売価額は三十八万三千七百円であるところ、これをもつてしては差押債権者に先だつ不動産上のすべての負担及び手続の費用を弁済して剰余が生じないので民事訴訟法第六五六条第一・第二項にしたがつて競売手続を取り消したものである。ところで右不動産に対する本件差押債権に先だつ不動産上の負担は抗告人主張のとおり申立外加瀬万蔵の債権額四十万円弁済期昭和三十五年五月六日利息年一割八分なる貸金債権を担保する抵当権であつて、右抵当権については昭和三十三年十二月十日千葉地方裁判所佐原支部の仮処分命令により債権者千葉相互銀行のため譲渡その他一切の処分禁止の仮処分登記がなされていること記録に徴し明らかである。しかし、右仮処分がなされていても、未だ本案の判決が確定していないことも記録に徴し明らかであるから抵当権は消滅したものとなすことはできない。従つて、本件競売手続における競落代金の配当にあたつては、民事訴訟法第六百三十条第三項を準用して競落代金から前記抵当権の被担保債権額を債権者のため供託しなければならぬ筋合である。すなわち、加瀬万蔵の右抵当権は右仮処分の存するに拘らず民事訴訟法第六百五十六条第一項の不動産上の負担であることにかわりはなく、右負担にあたらないとする抗告人の主張は理由がない。

抗告理由第二点について、

抗告人は、本件競売の目的物件は何れも農地であつて、抗告人のように相互銀行法にもとずく法人は法律上これを買受けることができないのであるから、差押債権者である抗告人に対し民事訴訟法第六百五十六条第二項にいわゆる「自ラ其価額ヲ以テ買受クベキ旨」の申立を期待することは不可能を強いるもので、これをなさなかつたからというので競売開始決定を取り消したことは違法であると主張するのであるが、もし抗告人が法律上本件競売物件を買受けることができないものとすれば、民事訴訟法第六百五十六条第一項に定める「最低競売価額ヲ以テ差押債権者ノ債権ニ先タツ不動産上ノ総テノ負担及ヒ手続ノ費用ヲ弁済シテ剰余アル見込ナシトスルトキハ」裁判所は差押債権者に同条の通知をなさずして競売手続を取消すことができるものと解するのが相当である。従つて、本件において原裁判所が抗告人に対し同条による通知をしたのは不要の手続をしたにすぎないものである。

しかして、前記のように、本件競売不動産の最低競売価額をもつてその不動産上の負担である抵当権の被担保債権を完済できないことが明らかである以上、原裁判所が本件競売手続を取り消したことは結局相当であつて、抗告人の主張は理由がない。

よつて本件抗告は理由がないのでこれを棄却する。

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