大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(行ケ)151号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決にはその主張の点に判断を誤つた違法があり、取り消されるべきものである旨主張するが、その主張は理由がないものというほかはない。すなわち、

(一)  引用例の記載内容が本件審決認定のとおりであることは、原告の認めるところであり、これと、成立に争いのない甲第一号証(本願考案の説明書)、第五号証(訂正説明書)及び第十号証(引用例)によれば、引用例の発明は、流動状のバター又はその類似物を冷却固形化し、これを一定の形態と硬さの下に連続的に取り出すようにしたバター整形機に関するものであり、粒子の小さい流動状のホンザンの製造を目的とする本願考案のものとは、その限りにおいて、目的を異にすることが認められるが、両者の加工の対象が、共に冷却固形化しないかぎり軟質の飲食物であり(このことは、原告の認めるところである。)、また、引用例の整形機においてバターの成型作用を受け持つのは、その冷却筒の後方に取り着けられた押出筒の部分であり、それより前方の、壁体内部にブラインを流通させ、その内部にスクリユーを架設した冷却筒の構造部分は、被加工物を練捏、冷却、移動(押出し)する作用を有するものであることが認められるところ、本願考案のスクリユーとその周りを覆つた水套とからなる構造が冷却、攪拌、混練、移動という作用を生ずるものであることは、原告の自認するところであり、両者の叙上の構造は同一の作用を有することが明らかであるから、両者は、この点同一の技術思想に基づくものとみるを相当とし、原告主張のような技術思想上の相違があるとは、とうてい認められない(なお、両者の押出しの力に大小の差があるとしても、それは、被加工物の成型の必要の有無に伴う程度の差にすぎないものというべく、引用例記載のものの目的、構成に徴すれば、その成型の作用の点を切り離して本願考案と比較することが不当であるとする理由はない。)。

(二)  本願考案と引用例のものとを比較すると、本件審決認定の二点のほか、原告主張の点において、構造上の差異があることは、本件当事者間に争いがないところであるが、スクリユーを本願考案のように一本にするか、引用例のように二本噛合いのものにするかは、両者の技術思想が、前説示のとおり、同一であると認められる以上、当業者の容易にできる程度の設計変更とみるべきものであり、また、製品内への空気の混入を特に排除する必要のない場合に、原料供給槽と漏斗状の注入口との間を密封せず、間隙をおいて原料を注入することは従来周知の事項に属し(この点は原告の認めるところである。)、かつ、前掲甲第五号証に示されている従来使用のホンザンビーターの構造に徴すると、ホンザンの製造の際、原料の混練に当たり、密封の要がないことは明らかなところであるから、本願考案において、原料注入口の上部に間隙を介して原料タンクの注出口を設けた構成に上記の周知技術を超えた技術的意義があるものとは、認められない。また、本願考案において、水套が一本のスクリユーの全周を覆うように構成されている点も、スクリユーを一本として設計したこと(スクリユーを一本とした場合に、水套を上記のような構成とすることは、本願出願前公知であつたこと原告の自認するところである。)に伴う必然の結果というべきであり、スクリユーを一本とすることが単なる設計変更であること前認定のとおりである以上、この点においても、従来公知の技術以上の格別の技術的意義を見出すことはできないものといわなければならない。

原告は、さらに、本願考案は、その主張するような特段の作用効果を奏する旨主張し、前掲甲第一号証、同第五号証には、原告主張の効果を奏する旨の記載があるが、本願考案におけるそのような効果は、いずれも、引用例の構造のものおよび上記の周知技術をホンザンの製造装置に転用したこと(なお、成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨に徴すると、バターの整形とホンザンの製造とはきわめて近接した技術分野に属し、両者技術分野を著しく異にするとは認められず、また、前認定のとおり、引用例記載のものと本願考案のものとは技術思想を同じくするものがあり、その転用に格別の技術的困難性があるとは認められない。)に伴う通常予測しうべき程度の効果にすぎないものというべく、本願考案が、引用例の記載から、当業者の容易に実施しうるものであるとした本件審決の判断は、正当であるということができる。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願考案の要旨

外筒1と内筒2とで水套3を形成し、内筒2の内部にスクリユー4を嵌装した軸5を容置し、内筒2の一端に原料注入口6、他端に製品排出口7を設けると共に、原料注入口6の上部に間隙を介して原料タンクの注出口を設けた連続式ホンザンビーターの構造(別紙図面(〔編註〕省略)参照)。

本件審決理由の要点

本願考案の要旨は前項掲記のとおりと認められるところ、本願出願前国内に頒布された特公昭二七―三、一九八号公報(以下「引用例」という。)には、外筒と内筒で水套を形成し、内筒の内部に互いに噛み合つて反対方向に廻転するスクリユーを設け、内筒の一端に原料注入口、他端に製品排出口を設け、前記スクリユーの内部にブラインを流通させるようにしたバター整形機が記載されており、(1)目的についてみるに、両者は、いずれも特に冷却固化しないかぎり、軟質の容易に練捏整形できる流動できる流動性の物質を加工するものであり、特にいずれも飲食物をその加工の対象としており、その操作は、その加工物を混練し、均一な品質を得るためのものであるから、考案の対象としてみるとき、単にその加工物の相違により、考案目的を全く異にするものと認めることは妥当ではない。(2)両者の構成、すなわち、その構造についてみるに、本願考案においては、スクリユーが一本であるに対し、引用例のものは、互いに噛み合う二本のスクリユーである点、また、前者においては原料注入口の上部に特に間隙を設けているに対し、引用例のものは(特に記載はないが)、その性質上原料の注入は密閉された連結管によるものである点において相違が認められるが、両者は、いずれも、原料の混合、練捏のために、また、連続的に加工物を送り出すためスクリユーが設けられているのであるから、そのスクリユーを本願考案のように一本にするか、引用例のもののように二本噛み合いのものにするかは当業者が適宜設計によつてできることと認められるところ、本願考案においては原料の混練に際して適当量の空気を混入させることの必要性から、原料注入口の上部に間隙を設けて、この間隙を通じて空気の製品内への導入を図つたものであるが、一般にこの種の装置において、空気の製品への混入を特に排除する必要のない場合は、原料供給槽(貯槽)から、いわゆる漏斗状の注入口への間隙をおいて原料を注入することは従来周知のことであり、本願考案は、この周知の原料注入のための構造をホンザンビーターに適用したにすぎないものであるから、この点に考案を認めることはできない。(3)目的及び構成に関する上述の両者の比較からも明らかなように、両者は、いずれも流動状の物質を水套により冷却しつつ、スクリユーにより、よく混練しつつ、均質なものとし、かつ、連続的に出口の方へ送り出すものであり、その作用、効果に特に差異あるものと認められない。以上のように、本願考案と引用例のものとは、目的及び作用効果において特に相違するものと認め難く、一部の構造において両者間に相違はあつても、その相違は特に考案力にまつことなく、当業者が容易に推考実施できる程度のものであるから、本願については拒絶をすべきものである。

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