東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)103号 判決 1971年10月29日
原告
(アメリカ合衆国インディアナ州)
ラ・サール・スティール・コンパニー
旧特許法第一六条による代理人
浅村成久
外二名
被告
特許庁長官
井上武久
指定代理人
渡辺清秀
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
この判決に対する上告のための付加期間を三か月とする。
事実《略》
理由
(争いのない事実)
一<略>
(本件審決の取消事由の存否)
二原告は、本件審決は、原告の指摘する点においてその判断を誤つた違法がある旨主張するけれども、その理由のないことは、以下説明するとおりである。
(本願発明の要旨の認定の誤りの主張)
(一) (本願発明の訂正明細書および特許公報)(本件審決の謄本)によれば、本願発明は、鋼、黄銅、アルミニウム、チタニウム、マグネシウムおよびその他類似の金属につき、棒材、杆材、管材あるいは線材の表面から不要の金属を除去し、その横断面積を縮小させる冷間仕上げ加工をすることを目的とし、その要旨とするところは、その特許請求の範囲に記載されたとおりの金属冷間仕上げ方法であつて、その特許請求の範囲にいう「二個のダイス」は切削ダイスと引抜きまたは押出しダイスをいい、また、「流体」とは潤滑能力を有する流体を指すものであること、ならびに、これらの「二個のダイス」および「流体」の意味は明細書および添付図面の記載から容易に看取され、本件審決も本願発明の要旨を右のようなものとして理解のうえ判断したものであることが認められる。してみれば、本願発明が単に鋼棒の冷間減経を眼目とするとの前提に立つて本願と引用例とは処理の対象および目的に差異があるとする原告の主張は、明細書の記載に反し失当であり、また、本願の特許請求の範囲の項の記載が原告主張のごとき発明の要旨を表現していないことを前提に、本件審決の本願発明の要旨認定に誤りがあること、および審査官または抗告審判官において特許請求の範囲の項の記載の訂正を命ずべき職責をつくさなかつたことの違法をいう原告の主張は、結局理由のないものといわなければならない。
(旧特許法第三五条の解釈の誤りの主張)
(二) 物の発明と方法の発明とは、両者が技術的思想を同じくする場合においても、旧特許法第三五条の規定により、ともに特許されるべきであるとの趣旨の原告の見解は、同条の誤解に基づくものというほかはなく、当裁判所の賛同しえないところである。本願発明が方法の発明であり、先願たる引用例が装置の発明である点に差異があつても、その実体をなす技術的思想が同一であるかぎり両者は同一発明であり、本願を特許すべきでないことは、いうまでもない。そして、両者は技術的思想を同じくすることは、次に説明するとおりである。
(両発明の技術的思想の差異の主張)
(三) 特許異議申立書添付の引用例の特許公報によれば、引用例の発明の要旨は、本件審決の認定するようにその特許請求の範囲に記載されたとおりの線材皮むき装置であり、これを前記認定の本願発明が「少くとも二個のダイスをかなり接近して隔てて軸方向に整列させ、ダイス間の空間を封鎖してこの封鎖空間に充満量の流体を連続供給し、ダイスを通して金属を一方向に送り金属の横断面積を縮小する金属冷間仕上げ方法」であるのに対し、引用例は、「伸線ダイスと皮むきダイスを、両ダイスが圧油貯溜孔の両端を堰き止めるようにかなり接近して隔てて線材の進行方向に整列して右の順に配置し、潤滑油圧入孔および同排出孔を設けたダイスホルダーにより右ダイス間の空間を封鎖してこの空間を伸線通過兼圧油貯溜孔とし、この封鎖空間にそれに連通する潤滑油圧入孔から充満量の潤滑油を連続供給して貯溜孔内圧油を皮むきダイス孔を通じて切削刃先部分にまで押圧滲出せしめるようにした線材皮むき装置」に該当し、また、作用効果の点において、本願と引用例とは、いずれも、二個のダイスが被加工材をダイスにまつすぐに(偏椅、振動することなく)導入するためのガイドとなり、圧力流体がダイス作業面に良好な潤滑作用を与えることにより、高能率、高性能、かつ、経済的な金属減経加工を行ないうるという作用効果を有する点において一致することを認めることができる。
してみれば、引用例は、本願発明の方法を実施する必然的な態様を具体的装置としてそのまま表現したものであり、また、本願発明は、引用例の装置を使用して行なう金属冷間仕上げの必然的な態様を方法としてそのまま表現したものに該当し、両発明は、まつたく同一の技術的思想につき、引用例は装置として、本願はこれを方法として、表現した差異があるにすぎず、両者は同一の発明というべきである。なお、本願明細書第一、四図に示す装置以外に、本願発明の実施例たる装置として原告主張(1)、(2)のごとき装置が考えうることは、本願発明と引用例の技術的思想の同一性を認定する妨げとなるものではなく、また、原告主張のダイスホルダーの有無に関する両者の差異も、単にダイスとホルダーとを同体とするか別体とするかの、作用効果に関係のない任意の設計事項にすぎないから、両者の技術的思想の異同に影響のないものであつて、この点に関する原告の主張も採用できない。
(むすび)
三以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消しを求める原告の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担等につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項を適用して主文のとおり判決する。
(三宅正雄 杉山克彦 武居二郎)