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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)200号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(取消事由の有無について)

二 本件審決が挙げた引用刊行物には、閃光電球に関し、

(1) 電球(ガラス製密閉容器)には白熱電球用軟質バルブ、半硬質バルブ、あるいは膨張係数40×10―7程度の硬質バルブその他を使用するが、いずれも耐熱、耐圧性であること、

(2) 電球ガラスの内面には、醋酸ビニール、ポリビニールブチラール、アクリル酸樹脂、スチロール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、珪素樹脂等の被膜を施し、その外面には、耐熱耐圧性で、ある程度弾性を有する醋酸繊維素の被膜を施すこと、

(3) 電球内には着火装置を有し、燃焼材料(発光性金属材料)としてアルミ箔(厚み一万分の二〜四mm)又はアルミマグネシウム細線(径0.015〜0.025〜0.035〜0.045mm)を封入し、助燃剤として酸素又は酸素と活性ガスを混合したものを封入すること、

(4) 電球内に充填する燃焼材料の量は一〇〜一〇〇mgであること、

(5) 直径一六mm、全長二五mmの超小型閃光電球に酸素四気圧を封入し、一三〇〇〇lm・Sの光量を出し、多量生産に成功したこと、が記載されていることを認めることができる。原告は、本件審決は、引例(一)に関する記載を引例(二)に関するもののごとく引用刊行物の記載内容の認定を誤つたと非難するが、原告指摘の(1)、(2)、(3)および(5)の事項のうち、(1)および(5)については、本願発明と引例(二)との間に特段の差異がないことは、結局原告の認めるところであり、また、(2)および(3)について、右両者間に格別の差異が認められないこと、後記のとおりであるから、この非難は当をえない。

すなわち、前掲引用刊行物に開示された技術内容と当事者間に争いのない本願発明の要旨とを比較すると、次の諸点において一応の差異のあることを認めることができるが、これらの差異は、各項の関係部分において説示するとおり、結局、当業者の任意選択の範囲ないしは設計変更の域を出ないものと認めるのを相当とするから、本願発明は、前掲引用刊行物に開示された技術から当業者の容易に推考しうる範囲を出ないものといわざるをえない。

(1) 電球ガラス素材についての本願発明と引例(二)との相違が、単なる選択の問題にすぎないことは、原告の争わないところである。

(2) 電球ガラス面に補強のため施す被膜の点において、本願発明は外面に塗装するものであるが、引用刊行物のものは硝球の内外両面に塗装するものであるところ、閃光電球の防護被膜を硝球の内面または外面もしくは内外両面に施すことが本願出願前周知に属することは、<書証>により明らかであるから、このような被膜に関する差異は、本件審決もいうとおり、単なる設計的差異にすぎない。原告は、引用刊行物における内外塗装の記載は、比較的大型の閃光電球に関するものであり、被膜の態様等は硝球の大きさが小型化するに従い当然別異の工夫、発明を要するものであるから、大型閃光電球に関する記載をもつて小型閃光電球に関する本願発明との比較の対象とすることは誤りである旨主張するが、硝球の内外両面に被膜を施すことが、原告の主張するように直径二二mm、全長五四mm程度の比較的大型の閃光電球にのみ適用されるべき技術であると論断すべき根拠は見当らないばかりでなく、現に、<書証>にも「密閉容器の外面被膜としては……云々」と、超小型閃光電球において、硝球外面にも、剪断強度が強く、ある程度柔軟性のある被膜を塗装する旨の記載があるから、原告のこの点の主張は正当とはいえない。また、原告は、引用刊行物における小型閃光電球(引例(二))は、燃焼材料の理論酸化量の1.5倍という過剰の酸素ガスを用いるものであるから、当然の結果として爆発の危険が高いものであり、本願発明のように爆発の危険のほとんどないものとは異なる旨主張するが、閃光電球の爆発の問題は、単に使用する酸素ガスの量によつて決せられるものでなく、使用するガラスの組成(混入するMgO、B2O3、K2O等)、厚さ、被膜の組成及び厚さ等種々の条件によつて決定されるべきものであるから(前掲甲第五号証参照)、使用する酸素ガスの量だけから、原告の主張する結論を導き出すことは、当を得ないものというほかはない。

(3) 本願発明と引用刊行物(とくに引例(二))との硝球内容積は、表現された数値においては差異はあるが、後者を円筒形として計算すると、両者ほぼ一致することは、原告の認めて争わないところである。

(4) 燃焼材料については、本願発明と引例(二)との関係では、結局、その充填量が均等であるといえることは、原告の認めて争わないところである。

(5) 燃焼支持用ガス圧力は、本願発明の場合少なくとも七〇〇mmであるに対し、引用刊行物のものには四気圧の場合が示されているが、本願の特許公報および前掲<書証>によれば、本願発明も引例(二)のものも、従来の閃光電球が2/3気圧程度」、「最高約六五〇mm程度またはそれ以下」のガス圧を用いていたのに対し、電球の小型化に伴つて硝球の単位容積当りの発光量を著しく高くするために、従来のものより相当高いガス圧力を用いようとする点で一致することが認められ、したがつて、「少くとも約七〇〇mm」とその下限値のみを限定して上限値につきなんら限定の趣旨の窺われない本願発明において、具体的にどの程度の圧力を採用するかは、所望の閃光出力等の条件に応じて適宜選択しうるところというべきであり、その点で、引例(二)のものに比し、とくに発明に値する技術的意義があるものと認めることはできない。

(6) 本願発明の燃焼材料であるアルミ刻み箔の長さは2.5〜13cmと限定されているに対し、引用刊行物にはその長さの記載がないが、閃光電球における燃焼材料としての細条の長さは、その厚さ及び幅、したがつて、その断面積(断面積が小であれば燃焼し易いことは見易いところである。)等と相関的に規制されるものであるから、本願発明において、単にその長さを限定したことに直ちに発明に値する技術的意義を見出すことはできない。したがつて、本願発明におけるこの長さの限定は、電球自体の小型化に伴い「全体として密度の平均した集団として硝球内の所要の位置に保接される」本願特許公報の記載)べき発光材料を、従来の大型電球に挿入する場合に比して、実験的に容易に選ばれるべき範囲内にあるものとみるを相当とする(本願発明の実施例におけるアルミ刻み箔の厚さ、幅、断面積が、計算上、引用刊行物のものと大差のないことは、本件審決が認定するとおりである。)。原告は、この点に関し、燃焼材料の長さは刻み目の多少に関係し、その多少が着火、燃焼、発光量に関係するから、この長さの意味はきわめて重大である旨強調するが、その採用に値しないものであることは、前説示に徴し明らかであり、また燃焼材料として線条でなく刻み箔を用いること自体に格別のものがないことも、明らかであろう。

なお、原告は、本件審決は、相互に相関連する本願発明の諸要件を個々別々に切り離して引用刊行物記載のものと対比したため、両者の全体としての顕著な相違を看過した旨非難するが、本件審決は、両者の相違点を肯認したうえ、その相違点につき発明の存在を認めがたく、本願発明は、全体として、本願出願前公知の刊行物である引用刊行物の記載から当業者の容易に推考実施しうる程度のものであるとしたこと前掲「本件審決の要点」から明らかなところであるから、原告の右非難も当たらないものといわざるをえない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。

(三宅正雄 杉山克彦 楠賢二)

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