東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)49号 判決
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〔判決理由〕(本件審決の違法事由の有無)
二 原告は、本件審決には原告指摘の点に判断を誤つた違法があるから取り消されるべきものであると主張するけれども、その理由のないことは、以下説明するとおりである。
(一) まず第一引用例の特許公報および本願発明の訂正明細書によれば、本願発明は、第一引用例の酸性粉末洗剤の改良に関するもので、第一引用例で用いる塩酸または硝酸は、尿垢等の汚物に対し最も強力な溶解洗滌作用を有するが、その強力なものを得ようとするほど発煙と劇臭を伴い、生産上、取扱上および保存上の難点があるのに対し、硫酸は、濃硫酸は生産上、取扱上危険があり、しかも、汚物溶解洗滌力が弱いが、水で稀釈(約四〇〜六〇%が最適)すると、塩酸のほぼ二五〜二八%程度の汚物洗滌作用を得ることができるので、これにソープレスソープのごとき中性洗剤を添加混合して洗滌作用を増強すれば、塩酸に比べ勝るとも劣らぬ洗滌効果を挙げることができ、しかも、劇臭も発煙も殆どないから、生産、使用および保存上有利な洗剤を得ることができるのであつて、この点に、本願洗剤に硫酸を使用する理由があることを認めることができる。しかしながら、塩酸も硫酸も、無機酸として酸性のもつ水素イオンの反応作用によつて、金属および有機物に対する溶解作用があることは、化学常識であるから、尿垢等の汚物溶解洗滌作用を有する酸性洗剤の原料として、両者は均等物というべきであり、また、これらが濃厚な場合に取扱上および保存上の危険があるが、稀釈すれば危険が減少することも、きわめて周知のことである。したがつて、第一引用例の洗剤における塩酸または硝酸に代えて、水で稀釈した硫酸を使用することにより(その汚物溶解洗滌作用を多少犠牲にして)、取扱いおよび保存上の利便を増大するようなことは、なんら格別の発明思想を用いるまでもないことというべきである。
(二) つぎに、ソープレスソープのごとき中性の粉末洗剤を添加することによる作用効果として、原告の主張する(1)ないし(4)の事項につき検討すると、(1)中性洗剤が、稀釈硫酸だけでは不充分な汚物溶解作用を補強する作用を有することは前認定のとおりであり、その界面活性剤としての性質上、稀釈硫酸液、白土および珪砂から成る潤製洗滌剤中の液分に浸透性を付与するであろうことは推察に難くないが、この点は、コロイド質粘土と塩酸を主成分とする洗剤に中性洗剤を配合することにより洗滌効果を増強する第二引用例において、中性洗剤が奏する作用効果となんら異なるところはなく、(2)中性粉末洗剤の添加により、潤性粉末洗剤の粘性が増大することは理解できるけれども、第一引用例のものにおいても、塩酸または硝酸と白土、珪砂の混合の割合のいかんにより、タイル等の垂直面に対し接触の良好な粘性を有する潤製粉末洗剤を得ることは容易であるから、本願において、とくに中性粉末洗剤の添加により粘性を付与するという点に格別の技術思想を認めることはできず、また、(3)便器やタイルに対する珪砂の当りをやわらかくするかどうかは、珪砂の研磨作用に必要な研磨能力との相関関係において決定されるべきことで、本願において、とくに中性洗剤が混合されているために、珪砂の研磨能力を減ずることなくタイル面への当りをやわらかくすることができると認めるべき根拠は見当らず、また、珪砂粒子の水洗による流動性についても、珪砂粒子はタイル面に附着しているにすぎないのであるから、本願のように、中性洗剤の添加により、あるいは潤製粉末洗剤の粘性が中性洗剤により付与されていることにより、とくに水洗のさいの流動性が良好になると認めるべき根拠もない。そして、(4)酸性洗剤に添加するのに、酸との中和反応を避けるため中性洗剤を用いるようなことは、化学常識に属する(第二引用例参照)。してみれば、本願においてソープレスソープのごとき中性粉末洗剤を混合することは、稀硫酸の汚物溶解作用を補強するという、第二引用例により公知の作用効果を狙いとするものにほかならず、それによつて、第一、第二引用例にみられない格別の作用効果を達成するものではないといわざるをえない。
(三) 本件審決が第二引用例を引用した趣旨は、本願発明と第一引用例との相違点である、稀硫酸を使用しそれに中性粉末洗剤を混合するという本願の構成に関連し、礦物質粉末および無機酸を主成分とする洗剤に中性洗剤を配合することによつて洗滌効果を増強することが、すでに公知であることを示すことにあつたことは、前記争いのない本件審決の理由の要点により明らかである。そして、第一引用例が本願発明と同一の技術分野に属する発明にかかることはいうまでもなく、第二引用例も右のとおり、礦物質粉末および無機酸を主成分とし中性洗剤を添加した洗剤として、本願発明と共通の技術思想を有するものである以上、これらを引用して本願発明の特許性を判断することに原告主張のような誤りがあるとは、とうていいえない。
(むすび)
三 以上説示のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、失当といわざるをえない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 杉山克彦 武居二郎)