大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)131号 判決

被告人 出口徳太郎

〔抄 録〕

記録を調査して按ずるに、被告人が原判示第一の日時に同場所から同判示ねこ(砂利運搬用一輪車)を搬出し自己の他の請負工事現場に運んだ事実及び被告人の使用人小関武夫が原判示第二の日時に同場所から同判示トタン板を搬出し被告人の会社の事務所の倉庫に格納した事実は明らかであり、ただ被告人が右ねこ及びトタン板がそれぞれ池田工務店及び北村製作所の各所有であることを知りながら、窃取の犯意を以つてこれを自ら搬出し或は右小関をして搬出せしめたか否かが本件各犯罪の成否を決する関係にある。ところで被告人は司法警察員及び検察官に対し右窃取の犯意を肯定した供述をなしているけれども、司法警察員に対する右供述は著しく瞹味不慥かであり、検察官に対する右供述も甚だ抽象的かつ簡略であつて、いずれも被告人が右犯意を有したことを合理的に確信させるに足るものでなく、反面被告人が当初司法警察員に対し右犯意を強く否定している事実と次に述べる事情とを考え合せるときは、被告人に右犯意があつたものとはたやすく認め難いのである。即ち被告人は昭和三六年一〇月原判示場所に飯場を設け工事用具等を搬入し、株式会社三上製作所の工場のブロツク積み及び外廊スレート張りの請負工事を施行し、右工場の他の請負工事を施行していた北村製作所及び池田工務店と作業所を同じくして作業を行つていたが、昭和三七年八月二二、三日頃右工事現場で使用していたねこ四台のうち二台を他の請負工事現場で使用するために搬出し、同年九月一〇日頃前記請負工事が完了したので使用人小関武夫に右工事現場の後片附けを命じ、右小関は右命に応じて後片附けをなし、現場に残存した工事用具飯場材料等を搬出したものであるところ、前述の如く請負工事施行の三会社が作業所を同じくしていたため作業員が工事用具を互いに取違えて使用する例も少くなく、被告人が搬出したねこも被告人の作業員が池田工務店のものを被告人のものと間違えて使用し、被告人もこれを自己のものと誤認して搬出した疑がないではなく、また原判示トタン板は、北村製作所の作業所材料で同年七月末頃その請負工事が終つた後作業所を取崩し被告人の飯場脇に積んであつたもので、被告人から工事現場の後片附けを命じられた前記小関が、これを被告人の飯場材料と誤認して、工事用具等と共に搬出したと疑われる余地も少くないのである。上述の如くで、被告人に前記窃取の犯意があつたとなし得る確証がなく、結局本件犯罪はその証明がないに帰するから、論旨は即ち理由がある。

(兼平 斉藤 関谷)

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