大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)1985号 判決

被告人 根本行雄

〔抄 録〕

所論は、ヤスが三月一八日の朝、靖行に着換えをさせた時に同人を強く突き飛ばしその後頭部を土間に激突させたことが、靖行の死因となつたのであるから、原判決が被告人とヤスとのいずれの暴行にかかる傷害であるか不明であるとして同時犯と認定したのは事実誤認であると主張するのである。

よつて案ずるに、ヤスが三月一八日朝九時ごろ靖行に着換えをさせた時に同人の胸の辺を手で突き飛ばし同人が後ろ向きに倒れたことはあるが、同人の倒れたのが所論の如く土間であつたとは認められないばかりでなく、鑑定人伊藤順通作成の鑑定書及び同人の検察官に対する供述調書によれば、靖行の死因は硬脳膜鎌状部の血管破綻による右硬脳膜下出血であるが、該出血はその症状により緩慢に起つたものと認められることに徴すれば、靖行の死因が一八日朝九時頃ヤスのため後ろ向きに突き飛ばされたことに存したとはにわかにいい難く、他方被告人も三月一七日の真夜中ごろ及び翌一八日朝七時半ごろに、靖行が寝小便をしたといつて、同人を足蹴にしたり、ハンマーの柄などで殴つたりしたのであるから(ヤスの司法警察員に対する昭和三八年三月二九日付、検察官に対する同月二六日付各供述調書)、被告人のこれらの暴行が靖行の死因に影響がなかつたとは断定できず、結局被告人及びヤスの、右各暴行を含め、二月下旬から三月一八日までの間のほとんど連日に亘るハンマーの柄、衣紋掛、杖、ハタキ、おむつかけその他で靖行の頭部、顔面等を殴打する等の暴行を加えて原判示各傷害を負わせたために遂に靖行をして硬脳膜鎌状部の血管破綻による右硬脳膜下出血により死亡するにいたらしめたものと認められるから、原判決が右出血が被告人及びヤスのうちのいずれの暴行によるものか明らかでないが、両名のうちいずれかの暴行によるものとして同時犯に認定したのは相当であるというべく、原判決に事実誤認の違法は存しない。なお所論は被告人が靖行に傷害を負わせたとしても軽微なものであつたとし、これを前提として、被告人に傷害致死の責任を問うのは不当であると主張し、またヤスの暴行がなかつたとすれば果して靖行の死亡という結果が発生したかどうか疑問であるから因果関係が中断されたと認められると主張するのであるが、被告人の暴行による傷害が軽微なものであつたといえないことは記録上明らかであり、また靖行の右硬脳膜下出血は急性なものではなく緩慢に起つたものであつて、ヤスが三月一八日朝九時ごろに暴行を加える前から進行していたこと前認定の如くであるから、ヤスの右暴行により靖行の死因に対する因果関係が中断されたとすることはできない。所論はいずれも採用し難く、論旨は理由がない。

(長谷川 関 小林信)

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