東京高等裁判所 昭和38年(う)2882号 判決
被告人 萩原一雄
〔抄 録〕
記録によれば、原審は、第一回、第三回ないし第十六回の各公判において判決の基本となる実体上の審理を行い、第十七回公判において判決の宣告をしたことが認められる。ところで、裁判官の列席は、いうまでもなく公判開廷の最も重要な要件であつて(刑事訴訟法第二百八十二条第二項)、その列席裁判官の官氏名は、公判調書の必要的記載事項とされているところ(刑事訴訟規則第四十四条第一項第四号)、原審第十四回公判調書を査閲すると、右公判調書には同公判に列席した裁判官の氏名の記載がないから、同公判がいかなる裁判官の列席のもとに開廷されたかを知る由がない。もつとも、右公判調書冒頭上部の裁判官認印欄に矢崎の認印があるが、右認印が同公判に列席した裁判官によつてなされたかどうか明らかではないのであつて、右認印のあることから直ちにその認印をした者が同公判に列席した裁判官であると速断することはできない。しかして、原判決は、同公判で取り調べた証拠を罪証には供していないが、同公判に列席した裁判官の氏名が不明である以上、同公判の続行として公判手続の更新を経ないで行われた第十五回公判以降の審理手続が適法であつたかいなかも不明であるに帰する。原審の訴訟手続には以上の点において法令の違背があり、この違背は判決に影響を及ぼすことが明らかである。(昭和二十三年六月二十六日最高裁判所第二小法廷判決、刑集二巻七号七百四十三頁参照。)
よつて、控訴趣意に対する判断はこれを省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第四百条本文に則り主文のとおり判決する。
(坂間 栗田 有路)