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東京高等裁判所 昭和38年(う)29号 判決 1963年3月28日

被告人 榎本辰雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

所論は先づ、被告人は自ら原判示井上武外六名の客を勧誘したものでなく、ポン引仲間の氏名不詳者から依頼され同人の勧誘した右客を原判示公然わいせつの犯行場所附近まで案内したに過ぎず、従つて右公然わいせつの正犯を幇助したのでなくその幇助犯を幇助したに過ぎないのに、原判決は被告人が自ら前記客を勧誘しこれを案内したもの即ち前記公然わいせつの正犯を幇助したと認定したのであつて、これは事実を誤認し法令の適用を誤つたものである、と主張するのである。

よつて記録を調査して按ずるに、原判決挙示の伊藤圭一、井上武、柴垣清に対する各証人尋問調書によれば、原判示井上武外六名の客を勧誘した者は被告人自身である疑いが極めて濃厚であるばかりでなく、仮りに右客を勧誘した者は被告人でないとしても、原判決は被告人が右客を案内した事実を認定しているだけで、被告人が右客を勧誘したとまでは認定していないのであるから、右事実誤認を主張する所論は失当である而して仮りに所論の如く被告人は単に右客を案内しただけでこれを勧誘したものでないとしても、幇助罪は、直接正犯と意思を通ずる場合に限らず、間接に正犯と意思を通じ或は全く正犯と意思を通ずることのない場合でも、正犯の犯行を容易ならしめてこれを助ける行為であることを知りながらその行為をなすことによつて成立するのであるから、被告人の原判示案内行為は同判示公然わいせつ犯の幇助罪を構成することは明らかである。なお被告人の所論は原審が前記客を一名も証人として尋問しなかつたとして審理不尽を言うのであるが、原審は現に前記客のうちの伊藤圭一、井上武、柴垣清等を証人としてその現在地の裁判所に嘱託して尋問しその尋問調書を公判において適法に取調べているのであつて右所論の誤りであることも明らかである。されば原判決には所論のような事実誤認も法令適用の誤りもないのであつて、この点の論旨は排斥を免れない。

所論は次に、原判決の量刑は重きに過ぎて失当である。と主張するので按ずるに、記録により明らかな如く被告人は三年位前からエロ映画、エロ実演の客引いわゆるポン引を業として来た者で、本件犯行もその業としての一行為であることが明らかで、この種事犯としても悪質なものと認められ、被告人の数多い前科歴等と合せ考えれば、被告人が所論の如く既に七〇歳を超えた資産も正業も近親もない老人であること等を斟酌するも、原判決の量刑はいささかも重過ぎるものではない。この点の所論も採用するを得ない。

よつて本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三九六条によりこれを棄却し、当審における訴訟費用の負担につき同法第一八一条第一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 兼平慶之助 斎藤孝次 関谷六郎)

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