大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)492号 判決

被告人 納征治 外一名

〔抄 録〕

所論は、軽犯罪法第一条第三三号前段は、犯罪類型を法文自体において明確にしておらず、かつ、思想の自由、表現の自由を直接弾圧することに向けられる危険性を有しているから、憲法第三一条に違反するとともに、同法第一九条、第二一条に違反するという主張に帰着する。

しかし軽犯罪法は、社会倫理的観念においては比較的軽度の非難に値するものではあるが、公安的見地から、とくに取締りの必要が認められる行為を、ほぼ包括的に規定した刑罰法規であるから、結局、公共の福祉を保持することを目的とするものであり、なお、同法は、とくに、同法の適用にあたつては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用することがあつてはならないと明記している(同法第四条)。そして、軽犯罪法第一条第三三号は、工作物、標示物の安全とその美観等を保護しようとするものであつて、同条号前段にいう「みだりに」というのは、社会通念上正当な理由の存在を認めえない場合をいい、「他人の」とは、他人の占有する意味であり、他人は個人にかぎらず、法人をも含み、「工作物」とは、土地に定着する建設物をいい、建物よりも広く、橋梁、電柱、記念碑、塔、門、塀等を含むものであり、「はり札」は、紙であると木片であると金属であるとを問わないものと解するを相当とする。また、憲法第一九条と第二一条が保障している思想および表現の自由といえども、絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反することを許されないことは、最高裁判所大法廷判例の趣旨としているところであり(昭和二八年(あ)第一七一三号同三二年三月一二日判決、刑集一一巻三号九九七頁、昭和三一年(あ)第二九七三号同三八年五月二二日判決、近く判例集に登載される予定)、前記軽犯罪法第一条第三三号前段の規定は、他人の家屋その他の工作物に、その他人の承諾を得ることなく、かつ、社会通念上是認することができるような理由がないのに、はり札をすることは、少くなくともその工作物の所有者や管理人に迷惑を与えるばかりでなく、自由に対する国民の権利の濫用であつて、公共の福祉のためにこれを利用するものとはいえないから、これを禁止し、これに違反した者を処罰しようとする趣旨であつて公共の福祉を維持することを目的とするものであることが明らかである。しかも、同条号は、前記軽犯罪法第四条の規定を合わせ考えると、思想および表現の自由そのものを直接弾圧することに向けられる危険性を有するものとは解することができない。したがつて、軽犯罪法第一条第三三号前段の規定は、所論憲法第一九条、第二一条に違反せず、また、同条号は、前記のようにそれ自体において犯罪の構成要件を明らかにしていると認められるから、所論憲法第三一条違反の主張は、その前提を欠くことに帰するので、論旨は理由がない。

(小林健 遠藤 吉川)

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