大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)497号 判決

被告人 大内栄

〔抄 録〕

検察官の控訴趣意第一点について

所論は、原判決は本件傷害致死及び傷害の所為を目して正当防衛に於ける防衛程度を超えた過剰防衛行為であるとしているが右は明らかに事実誤認である。即ち本件は被告人が昭和三七年一〇月六日午前五時過頃東京都荒川区南千住五丁目一番地先路上に差蒐つた際、タクシー運転者増子八郎とタクシーに乗つていた森川清とがダンプカーの運転者斎藤省市と口論するのを目撃し、冷笑を浮べ乍ら右口論に介入し、次いで踏切を越した先に於ても他のダンプカーの運転者に同じ仲間なら助けてやりなよ等右斎藤省市へ加勢するよう嗾かけ、更らにタクシーに戻つた右増子八郎の傍に近寄り口論に介入したので、右増子八郎及び森川清は立腹し、被告人を難詰し、間もなく殴合いの喧嘩となり、被告人を鉄条網の処に押して行つたので、ここに被告人は所携のナイフを振つて反撃に転じ、増子八郎に前胸部刺創他十個所の刺切創を負わせ、森川清に左肩部刺創を負わせ、増子八郎を死に致したこと明らかで、被告人が右ナイフを振つたことは、互に攻防を繰り返す喧嘩闘争中の行為であつて、防衛に於ける防衛の程度を超えた過剰防衛行為とは看られない。原判決はこの点に於て明らかに事実を誤認したもので、その誤認が判決に影響を及ぼすこと明らかであると云うに在る。

よつて案ずるに、記録を精査検討し、原判決が挙示した証拠就中医師上野正吉同矢田昭一共同作成の鑑定書、医師梁川函浩作成の森川清に対する診断書、原審証人森川清、同山田五郎当審証人森川清の各証言を綜合すれば、左記事実を認定することができ、本件は被告人がタクシー運転者増子八郎同乗者森川清とダンプカー斎藤省市等との間の口論の局外者であるのに、これに介入し、増子八郎等を挑発し、増子八郎等と殴合いの喧嘩をし、原判示有刺鉄線の処に押えつけられるや、用意のため携帯していたナイフを取出して、反撃に転じ、これを振つて増子八郎に深さ七糎の前胸部刺傷の外頭部、胸部、手等に十数個所の刺切創を与え、因つて同人を死に致し、更に逃げんとする森川清の左肩胛部に加療二週間の傷害を負わしめた事実が認め得られ、右被告人のナイフを振つた所為は、いわゆる攻撃防禦を繰返す喧嘩闘争による連続的闘争行為の過程に於てなされたものであること、而も右ナイフを振つたことは積極的に増子八郎等を攻撃せんとする意思に出でたものであること明らかであるから、被告人の右ナイフを振つた所為は到底防衛行為とはいい得ず、従つて過剰防衛行為をもつて論ずべき筋合ではない。それ故過剰防衛を認めた原判決は事実を誤認したものと云うべく、他の量刑不当の点につき判断するまでもなく、原判決はこの点に於て破棄を免れない。

(尾後貫 鈴木良 飯守)

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