大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)574号・昭38年(う)573号 判決

被告人 石井尚彦

〔抄 録〕

弁護人の論旨第一および被告人の論旨のうち原判示昭和三七年一〇月五日附起訴状記載の公訴事実第一の事実が詐欺罪であつて恐喝罪ではないとの主張について。

欺罔が恐喝そのものの手段である場合においては、たとえ相手方がその虚偽の事実に欺かれたため畏怖心を生じた場合でも恐喝罪を構成し詐欺罪は成立しないと解すべきところ(昭和二三年(れ)第一二四一号、同二四年二月八日最高裁第二小法廷判決刑集三巻二号八三頁参照)、原判決にかかげてある証拠(右証拠のうち飯田博義の司法警察員および検察官に対する各供述調書岩田勝治作成の捜査報告書について、被告人は、捜査官憲は被告人が暴力団関係にある者であるということで、故らに恐喝罪として処理しようとの意図の下に誘導的質問をした結果できあがつたもので、任意性を欠き、従つて信憑性もないものであると主張する((被告人の控訴趣意書第九の理由))。しかし記録を精査するも、右各証拠が所論のように任意性を欠くものであることを認め得べき何らの資料なく、むしろ却つてその供述または記載内容、形式および原審において取り調べた他の各証拠との対比によれば、飯田博義の任意の供述を録取し、または捜査官が本件恐喝の被害現場の所在を確認し、その所在の状況を図示した略図を添付して、その結果を真正に報告したものと認めることができる、従つてその信憑性も認めることができるから原判決が右各証拠を証拠として事実認定に供したことはもとより適法である。)によれば、被告人が栗原孝吉と共謀のうえ、飯田博義が被告人をモルヒネ中毒患者と知りながら、東京都知事にその届出をすることなくモルヒネ注射をなしていることに乗じ、金員を喝取しようと企て、昭和三七年八月二三日頃、被告人が右飯田の経営にかかる東京都墨田区向島請地町三〇番地所在の医院においてモルヒネ注射をうけた直後、右栗原が麻薬取締官を装つて来院し、被告人の身体検査をなすなどしたうえ右飯田に対しカルテを提出させ、「取調をしたいことがあるから一緒に来てくれ。」と申し向け、栗原を麻薬取締官と誤信している右飯田を同区東駒形四丁目一九番地旅館「大阪屋」に連行し、同旅館二階客室において、被告人が右飯田に対し、「俺は強制入院ぐらいで済むが、このままにしておくと先生は医者をやめさせられる。俺が三〇〇万円持つているから取締官を買収した方がよい、お互に半分づつ分担しよう。」などと申し向け、さらに栗原において飯田に対し、「患者に頼まれたからといつて麻薬を注射するのは悪いことだ、殺人と同じだ、二、三年間医者をやめるんだな。先生が一切の責任を負わねばならない。」などと申し向けて脅迫したうえ、被告人が栗原に、あらかじめ新聞紙で作つて用意しておいた二〇〇万円の札束と額面一〇〇万円の約束手形を手渡したりした後、被告人において飯田に対し、「明日までに一五〇万円を旅館に持つて来い。」と要求し、同人をして右虚偽の各事実に欺かれたため、もし右要求に応じなければ前記違反行為が取調をうけるのは勿論のこと麻薬の免許を取消され医院の経営が不可能に陥るものと畏怖せしめ、よつて翌二四日頃、右「大阪屋」において、同人から現金一五〇万円の交付を受けてこれを喝取したものであるとの原判示事実を優に認めることができ、記録を精査し、かつ、当審における事実取調の結果を検討しても、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認の疑はなく、また、原判決が右事実を恐喝罪に問擬したことはまことに相当であつて、原判決には法令の適用の誤もない(被告人は、原審において被告人が恐喝の公訴事実の一部について詐欺罪であると主張したのに、原判決がその主張を退ぞけて、恐喝罪と認定したことについて何らの見解も説明しないのは違法であると主張する(被告人の控訴趣意書第一一の理由)が、後に説明するように、被告人が原審において右のような主張をしたことはこれを認め難いばかりでなく、右の如き法律見解は、本来説明の限りではないものである。従つて、論旨はいずれも理由がない。

(加納 河本 清水)

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