東京高等裁判所 昭和38年(う)69号 判決
被告人 西村幸吉
〔抄 録〕
所論は、要するに審理不尽及び事実誤認を主張するものであるので、この点について考えて見るに、原審において取調べた証人甲賀鉄男の証言、同人作成の現認報告書及び当審において取調べた証人中山致の証言、被告人本人の供述を総合すれば、被告人は、原判示日時頃中山致の求めにより、原判示自動車を運転して原判示場所まで来り、同所に原判示の如き状態にて駐車したが、同所に待合せていた中山致から同人のライトバンを運転して川崎市へ行き材料を引き取つて来てくれるよう依頼を受けたので、これを承諾し、被告人の乗つて来た自動車は運転免許を有する中山致が預かつて約一粁離れた駐車場へ運転して行つて同所へ納入することとして、互に自動車の鍵を交換して、直ちにライトバンに乗換えて同所を出発した(停車後右出発までの所要時間は約一分)ものであるが、中山致が所用に取紛れて被告人の自動車を駐車場へ運転して行くことを怠つているうちに司法巡査甲賀鉄男に発見されて本件事犯を摘発されるに至つたものであることを認めることができるのであつて、他に右認定を左右すべき証拠はない。そうだとすれば、被告人の本件行為は、所要時間約一分の人の乗降のための自動車の停止(人の乗降のための停止に直接該当しないとしても、類推適用あるべき場合と解する)に過ぎないので、道路交通法第二条第一八号にいわゆる自動車を駐車した行為には該当せず、これを要するに、本件自動車を駐車したのは中山致であつて、本件はむしろ同人が処罰を受くべきであり、被告人に本件駐車の責任を負わしめるわけに行かないのである。現に、中山致は、甲賀巡査に本件駐車をとがめられた際、鍵を預かつているから自分の責任であると明言しているのであつて、要するに本件は処罰すべき人間を誤まつた案件であるといわなければならない。即ち、原判決は事実を誤認して被告人に有罪の判決をしたものであり、この誤認が判決に影響を及ぼすこと明白であるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項第三八二条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により当裁判所において更に判決する。
(無罪判決)
本件公訴事実は、「被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和三七年九月一五日午後四時三〇分頃東京都大田区大森二ノ一七三先歩車道の区別のない道路において普通乗用自動車第五は九五五三号を駐車するに際し、その道路上に三・五米以上の余地を残さないで三〇分間駐車したものである」というのであるが、前記説明の如き状況であるので、本件は犯罪の証明がないこととなるから、刑事訴訟法第三三六条により被告人に対し無罪の言渡をすることとする。
(久永 栗本 上野)