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東京高等裁判所 昭和38年(う)901号 判決 1964年1月20日

主文

原判決を破棄する。

被告人ハリー・エドガー・ウイリアムスを懲役弐年に、

被告人リチャード・リー・ジャクソンを懲役十五年に処する。

原審訴訟費用中通訳人に支給した分は、その十分の三を被告人ハリー・エドガー・ウイリアムス、その十分の七を被告人リチャード・リー・ジャクソン、証人ユージン・ロバート・ララビー、同藤井安雄に支給した分は被告人リチャード・リー・ジャクソン、当審における訴訟費用中通訳人に支給した分は、その二分の一づつを各被告人、証人菅原留七同小島滝造同滝秀次同遠藤君枝同渡辺孚に支給した分及び鑑定人渡辺孚に支給した鑑定料は被告人リチャード・リー・ジャクソンの負担とする。

被告人両名の本件控訴はいずれも棄却する。

理由

検査官の控訴趣意第二点について。

所論は、原判決は被告人ジャクソンの判示公務執行妨害の所為と判示殺人の所為を一所為数法の関係ありとして刑法第五四条第一項前段を適用しているが、同被告人の殺人の行為と同巡査から拳銃を奪取して逃走しようとした公務執行妨害の行為とは、犯意も行為も法益も全く別異のものであつて、同被告人は右拳銃奪取後において、同巡査に対する殺意を固めたもので、公務執行妨害の犯意とは別個に、新に生じたものと認められるから、両行為については併合罪の規定を適用すべきであつて、原判決は、この点で法令の適用を誤つており、この誤りは判決に影響を及ぼすこと明白であるというにある。

よつて、記録を精査するに、原判決は挙示の証拠により、原判示のように被告人ジャクソンの原判示被害者巡査遠藤寛に対する当初の犯意は、相被告人ウイリアムス及び原判示アーカン・パチエリ等と共に同巡査によつて原判示巡査派出所まで同行を求められていた同僚ドリスコールを奪い返し、その際同巡査から所携の拳銃を取り上げるなどの暴行を加え、もつて同巡査の職務の執行を妨害しようとし、このような犯意の下に、原判示のように、同被告人において、同巡査の身体を手で押し、相被告人ウイリアムス及びアーカン・パチエリ等とともに同巡査に襲いかかり、そして、相被告人ウイリアムスが組みついて路上に横転させ肩口を押えつけ同巡査の拳銃帯革の中から同巡査所携の原判示拳銃一挺を取り上げるなどの暴行を加えたこと、及び、被告人ジャクソンは単独で右拳銃を奪取後殺意を以て横転している同巡査の身体を狙つて右拳銃を発射し同巡査を殺害したことを夫々認定していることがいずれも明白で、従つて右共謀の公務執行妨害行為と被告人ジャクソン単独の殺害行為は別個の行為であつて記録を調査するもこれを否定すべき資料は存しない。さすれば、被告人ジャクソンの原判示公務執行妨害の所為と殺人の所為とは、検察官所論のとおり刑法第四五条前段の併合罪の関係にあつて、原判示のように刑法第五四条第一項前段の一所為数法の関係にあるとは認められない。されば右両者につき一所為数法の規定を適用した原判決は、法令の適用を誤つているというの外なく、この誤りは判決に影響を及ぼすこと明白であるから量刑不当の点につき判断するまでもなくこの点で原判決中被告人ジャクソンに関する部分は破棄を免れない。(裁判長判事 鈴木良一 判事 飯守重任 判事 赤塔政夫)

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