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東京高等裁判所 昭和38年(う)940号 判決 1963年7月17日

被告人 加藤昇

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

所論は要するに被告人は一時停車したのである、これを道路交通法第四十五条第二項の駐車を以て問擬したことは事実を誤認し、ひいては法律の適用を誤つたものであるというのである。記録に徴すれば被告人は原判示日時、本件現場附近のいわゆる甲州街道を八王子市方面から新宿方面に向い原判示自動車を運転進行中、電話をかける必要を生じたところ、道路右側で本件横路地に入る角にたばこ屋があり、その店頭に赤電話があるのを気付いたが、甲州街道は駐車禁止になつているので、右街道に駐車することはできなかつたこと、よつて右路地に入り赤電話より七メートル余り離れた原判示場所に車両を停め、エンジンをストツプして、右赤電話に行き電話帳を見たりして電話をかけようとしていたこと、そのとき警察のパトロールカーが来て二、三回運転者を呼んだので、被告人は車両のところに帰つてきたことを認めることができる。按ずるに道路交通法にいわゆる駐車とは、車両等が客待ち、荷待ちその他の理由により継続的に停止すること、又は車両等が停止し、かつ、その運転者が車両を離れて直ちに運転することができない状態にあることを指称するものであつて、同法第四十五条第二項は、同項所定の場所には、道路の幅員と車輻の相対関係から、駐車(同項但書の場合を除く)をすることは、交通の円滑を阻害するおそれがあるとして禁止したものと解すべきところ、被告人は原判示場所で、車両のエンジンを止め、その傍から離れ、七メートル余りも離れた赤電話のところに行き、先ず電話帳をめくつて先方の番号を調べ、次いで電話をかけようとしたものであるから、この場合被告人は直ちに運転することができる状態になかつたものというべきであつて、本件は前記法条にいわゆる駐車に該当するものといわなければならない。尤も被告人が現実に駐車していたのは、約二分間であつたことは、原判決が判示するとおりであるけれども、右はパトロールカーが来て運転者を呼び戻したからであつて、仮りに車をとめた時間が僅かに約二分間であつたからとて、駐車にならないとはいわれない。

これを要するに原判決には何等判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認も法令適用の誤も存しない。論旨は理由がない。

よつて本件控訴はその理由がないので、刑事訴訟法第三百九十六条に則りこれを棄却すべく、当審における訴訟費用は同法第百八十一条第一項本文を適用して、被告人の負担とし主文の如く判決する。

(裁判官 三宅富士郎 東亮明 井波七郎)

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