東京高等裁判所 昭和38年(う)971号 判決
被告人 ローレンス・J・マラー
〔抄 録〕
所論は、原判示第二の事実について、原判決には事実誤認の違法がある。即ち道路交通法第七十二条第一項に定める交通事故があつたときの負傷者の救護その他必要な措置を講じ且つ警察官に交通事故の発生した日時場所等の報告をすべき義務は交通事故を知つていることが必要であり、その認識を欠くときは右義務を生じないものと解すべきところ、被告人は本件交通事故発生直後被害者寺本鉄也が負傷したことは勿論同人の運転する判示自転車の顛倒したことも知らなかつたのであるから、本犯罪は成立しない旨主張する。よつて按ずるに、同条項所定の犯罪の成立するには車輛等の運転者等が車輛等の交通により人の死傷又は物の損壊があつたことの認識を要するものと解すべきこと所論のとおりであるが、ここにいう認識とは必ずしも確定的なものであることを要せず未必的なものであれば足りるものと解するを相当とするところ、本件についてこれを観るに、被告人の検察官に対する供述調書に原審証人網野嘉彦及び同高橋潔の当公判廷における各供述、当審における証人網野嘉彦及び同高橋潔に対する各証人尋問調書、寺本鉄也の検察官及び司法警察員に対する各供述調書並びに検察官作成の実況見分調書二通を合せ考察すれば、当時被告人には少くとも本件事故により被害者寺本鉄也に判示傷害を負わせまたは同人の運転する判示自転車を損壊したことに対する未必的な認識のあつたことが認められるから、原判決にはこの点について事実誤認の違法は存しない。論旨は理由がない。
(藤島 山本 小俣)
注 本件は量刑不当で破棄