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東京高等裁判所 昭和38年(く)83号 決定 1963年12月17日

少年 F(昭二一・九・四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙抗告申立書記載のとおりであつて、要するに原裁判所の処分が著しく不当であると主張するものであるが、本件保護事件記録並びに少年調査記録を調査すると、本少年の非行は、右少年が外三名と共謀の上昭和三八年○月○○日午後八時五〇分頃東京都世田谷区○○町○○○○番地所在日本○○グラウンドにおいて、小○隆等に因縁をつけ、本少年は所持していた千枚通しを、共犯者Kは所携の洋食用金串を右被害者等の胸につきつけ金を出せと脅迫し、その抵抗を抑圧して小○隆所有の現金五百円を強奪したと言うものであつて、本少年は右Kと共に右非行の主謀者であり、右千枚通しは少年が右グラウンドでそこを通りかかつた男女連れの男を脅し金をとる為自宅から携行したもので、(この点Kが同夜友人(N)方で金串を借用して来たのよりも情状は重い)、右両名は前夜も同様の非行を遂げようとして右グラウンドに赴いたが、同日は通行人がなかつた為その目的を遂げなかつたことと併せて考えると、本件はかなり悪質な計画的行為と認める外はなく、右少年が護身用として右千枚通しを持つていつたとの主張はたやすく肯認し難い。しかも本少年は右現場において逃げる被害者に追に迫りその腹部を膝で蹴る等の暴行を加えておる外右被害者の腕につけていた時計をも取り上げようとしたことが認められしかも、被害者等の誰かが警察に申告した気配を察すると、附近の叢に右千枚通しと奪取した五百円札を隠して、犯行の発覚を妨げようとした形跡がある。以上の諸事情に徴すると、少年の犯情はかなり重いものであり、なお調査官作成の調査票によれば、本少年は約一年前から素行が乱れていた形跡がある。而して本少年の父は信○病院の機関士として右病院に住み込み月五、六回しか帰宅しない実情であり、母は家政婦として毎月一二日ないし一八日間他に働きに出ている有様であつて、本少年の家庭環境は少年を監護する能力に欠けるものがあると認められる。このような環境の下において前記のような非行性の発現と認められる行動に出た少年に対しては、その性格を矯正するため、(未だ非行歴がないとは言え)原審の採用したような保護処分に付することは、必ずしも不当とは認め難く、本少年が右処分に従い自主的に性格の改善と今後の更生に努めるならば、その努力は単に本人ばかりではなく、その家族全員の幸福を招く所以であると考えられる。この意味において原審の決定は所論のように不当に重い処分とは認められないから本件抗告は理由がないものとして棄却を免れない。

よつて少年法第三三条第一項に従い主文のとおり決定する。

(裁判長判事 藤嶋利郎 判事 山本長次 判事 小俣義夫)

別紙

抗告申立書

少年 F

右附添人弁護土 今川一雄

右同 平田久雄

右少年に対する強盗被疑事件につき昭和三八年七月二四日東京家庭裁判所八王子支部において、中等少年院送致決定の言渡を受けましたが、右処分は著しく不当でありますので再審判を願い度く不服の申立を致します。

理由

一、本件は少年がその一週間前に多摩川で三人組の不良に殴打されたため、外出する際その身を防衛するため錐ようのもを所持していたところ、その時の勢いで被害者に示して金員を取つたため強盗事件となつたが、その実体は強盗と言われる程強度のものではなくむしろ恐喝である。

また被害者は少年の親の謝罪に対し快くこれを示談としている。(なお、被害金員は犯行後直ちに被害者の手許に戻つている)

二、少年は本年漸く一六才で過去に於て非行歴全くなく、その性格も少年鑑別所の鑑別によつても良性を示し、犯罪に陥り易い性格では全くない。

学業にも熱心で、学校を休んだこともなく、その成績は中位を保つている。

家庭は両親共に健在、少年は四人兄弟の末子で堅実な家庭環境である。

三、右事情を斟酌するとき少年院送致処分にする理由は全くなく著しく不当と言わなければならない。

右少年は○○商工高等学校電気科二年在学中であるが少年が一年間少年院における生活を送るときは、その学業中断し復学は殆んど困難と言わなければならない。

かくするときは少年はその一生の針路を誤り、不幸に陥ることは目にみえており、右送致決定は少年の健全な育成を期する少年法の精神にもとるものであり、少年鑑別所の保護観察相当の意見を無視したことは甚だ遺憾であるので本抗告に及ぶ次第である。

昭和三八年八月二日

右附添人弁護士 今川一雄

右同 平田久雄

東京高等裁判所 御中

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