東京高等裁判所 昭和38年(ツ)52号 判決
所論三は、原審における証人板倉町蔵の証言によれば、一年以内に店舗拡張する見込みがあつたと謂うような認定は、到底これをなしえないと主張するが、原判決挙示の証拠によればかかる認定をなしえないわけではない。而して借家法第八条所定の「一時使用のため賃貸借をなしたること明らかな場合」とは、賃借人の家屋使用の目的、態様が一時的の場合にのみ限られるものではなく、賃貸借契約をするに至つた賃貸人の事情動機等に照らし、賃貸借が短期間に限定されるべき合理的な事由が存し、且賃借人がこれを了解の上賃貸借をした場合も含まれると解するのが相当であるから、原審認定の前記事実関係の下においては、原審が本件賃貸借を以つて借家法第八条所定の一時使用のための賃貸借と判断したことは正当であつて、所論二の通り、賃借人(上告人)の家屋使用目的が菓子卸売りを営むことにあつて、この利用目的自体からは一時使用のためとは言えないにせよ、そのことは未だ本件賃貸借が一時使用のためのものであることが明らかであるとする原審の判断を左右するには足りないし、又所論四のように、上告人が本件家屋での営業が成り立つかどうかにつき不安の念を抱いていたことは、むしろ本件賃貸借が一時使用のためのものでないことを示すものである、と解することは相当でない。なお所論三は被上告人が未だに板倉所有の隣家を買収していないと言うが、原審は、被上告人は、第一に板倉所有の隣家の買収を計画し、それが不可能ならば、本件家屋との交換により右板倉所有の隣家を取得して店舗拡張をなしうる見込であつたと認定しているのであつて、みぎの交換には先づ以て本件家屋の明渡が必要であることは、敢えて説明をまたないところであるから、未だに隣家を買取していないことから、被上告人の店舗拡張は当初からとりとめのない計画であると推論し、「一時使用」を否定するのは正当ではない。
(岸上 中西 室伏)