大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和38年(ツ)8号 判決

所論は要するに、原判決が、調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、その記載は既判力を有するとの見解に立つて、調停が虚偽表示により無効であると謂う主張や、詐欺による意思表示を理由にこれを取消すと謂う主張は、いずれも既判力に抵触するので許されないと判示し、上告人の主張を排斥したのは、調停の効力に対する法令の解釈を誤つた違法がある、と謂うのである。

按ずるに、原判決が所論の通り判示して、本件調停が当事者の通謀虚偽の意思表示であるから無効である旨及びみぎ調停は被上告人の詐欺による意思表示であるから、本訴においてこれを取消す旨の上告人の主張について、その事実の有無を審理判断することなく、これを排斥したことは、原判文上明らかである。按ずるに調停は訴訟行為たる性質を有する反面、私人の間の私法上の合意たる性質をも有するから、その合意が瑕疵ある意思表示に因るものであるときは、無効乃至取消されるべきものと解するのが相当であつて、該調停調書の執行力の排除を目的とする請求異議の訴により、みぎの主張をなすことは許容されるべきである。そして調停の私法行為たる一面を考慮すれば、民事調停法第一六条民事訴訟法第二〇三条の規定により、調停は確定判決と同一の効力を有する旨規定されてはいるものの、そのことから直ちに前記の如き調停の無効、取消を主張しえないと断定すべきものではないのであつて、最高裁判所昭和三三年三月五日大法廷判決は、専ら罹災都市借地借家臨時処理法第一五条による借地権設定に関する裁判の効力に関するものであつて、調停について意思表示の瑕疵に基く無効取消の主張を許さない趣旨とは断じがたく、このことはその後に現はれた昭和三三年六月一四日最高裁判所判決の説示、昭和三六年五月二六日及び昭和三八年二月一二日各最高裁判所判決における調停及び裁判上の和解の無効に対する取扱いより窺われるのである。してみると原審が調停には既判力があるとの判断のもとに、上告人主張の虚偽表示及び詐欺の事実の存否について、審理判断することなく、直ちにみぎの主張を失当として排斥し、以て本件調停調書の執行力の排除を求める部分に関する控訴を棄却したのは、法令の解釈を誤つて審理不尽理由不備の違法に陥つたものと謂うほかはない。

(中西 室伏 安岡)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!