大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1546号・昭35年(ネ)929号 判決

よつて進んで、控訴人主張の不法原因給付の抗弁について判断する。前記選挙の全国区の選挙費用の法定額が金一、四〇三、七〇〇円であることは成立に争がない乙第一号証によりこれを認めることができる。而して前記選挙について甲府市にある控訴人の選挙事務所で支出することを予定されていた選挙運動費が右全国区の法定額を遥に上廻る金額である約金三〇〇万円であつたこと、並びに被控訴人が前記金四〇万円を控訴人のために選挙事務長である訴外山本達雄に立替支払つた当時である昭和二八年四月二二日には、既に控訴人から右山本に交付された約金二〇〇万円前後の金員が控訴人の選挙費用として支出されていたことは、当審証人山本達雄の証言に原審並びに当審における控訴人本人尋問の結果を綜合してこれを認めることができる。右事実によれば、前認定のように被控訴人が訴外山本達雄に対し、控訴人のために選挙費用として立替支払つた金四〇万円は、控訴人の選挙費用の法定額を超えて支出される関係にあつたものであるということができる(しかも、右金四〇万円が現実に選挙費用として支出されたことは、原審並びに当審証人山本達雄の証言により認められる。)

ところで公職選挙法が選挙費用の額を法定し、法定額を超えて選挙運動に関する支出をすることを禁止し、その違反を犯罪として処罰することゝしているのは、選挙の公正を期するため、候補者をしてできるだけ平等な経済的条件の下で、経費のかゝらない選挙をさせようとするものであつて、これに違反する行為が選挙の公正を害し、民主政治の健全な発達も阻害するものであることは論をまたないところであるが、等しく選挙犯罪といつても、買収、饗応、選挙妨害等の行為が刑事犯即ち本来反社会性、反道徳性を有する犯罪の性格を有するものであるのに対し、前記選挙費用の法定額違反は行政犯即ち法律の規定をまつてはじめて犯罪とされる犯罪の性格を有するものと解して差支えないものというべきであり、現に昭和二九年法律第二〇七号による改正以前においては、選挙費用の法定額違反は犯罪とはされていなかつたし、右改正以後は犯罪とはされているが、法定刑は禁錮刑又は罰金刑であつて、懲役刑は科せられていない。右の事実即ち、選挙費用の法定額違反の行為が行政犯であつて刑事犯ではないこと、殊に前認定の金四〇万円の立替が行われた当時においては行政犯ともされていず全然刑罰の対象となつていなかつたことは、少くとも、当時においては選挙費用の法定額違反の行為は、それ自体としては、いまだ「行為の実質が当時の国民生活並びに国民感情に照らし反道徳的な醜悪な行為としてひんしゆくすべきほどの反社会性を有する」場合(昭和三五年九月一六日最高裁判所判決)に該当するものと解すべきでなく、(買収、饗応等の前記刑事犯に属するものが、右の場合に該ることはいうまでもない)従つて民法第七〇八条にいわゆる「不法」には該らないというべきである。

以上の理由により被控訴人が控訴人のためになした金四〇万円の選挙費用の立替支出は民法第七〇八条の不法原因給付に該当しないものというのほかなく、右行為が不法原因給付であると主張する控訴人の抗弁は理由がないものといわなければならない。

(小沢 仁分 池田)

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