大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1731号 判決 1965年9月08日

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人国は控訴人に対し別紙目録記載の土地について昭和二二年一〇月二日新潟県知事がなした買収処分は無効であることを確認する。

三  被控訴人茅野は右土地につき新潟地方法務局昭和二四年一二月一七日受付第一〇、五七七号を以て被控訴人茅野のためになした所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人等は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実及び証拠関係の陳述は

控訴代理人が

一  控訴人が本件土地を買収された事実を確認したのは昭和二七年四、五月頃買収代金を受領するよう通知をうけた時である。

被控訴人茅野が本件土地の買受申込をなした日時は不知。

二  証拠として当審証人藤間ユキ同佐藤早苗の各証言及び当審における控訴本人の第一、二回の供述を援用し乙第五号証、第六号証の一、二は成立を認めるが同第四号証の一ないし三は不知

と述べ

被控訴代理人が

一  被控訴人国は買収令書の交付に代えて新潟県報に公告した事実はないので右主張を撤回する。

二  被控訴人茅野が本件農地買受申込の日時は昭和二二年一一月一〇日である。控訴人が昭和二七年四、五月頃買収の事実を知つたことは否認する。

昭和三七年調停により明瞭に知つたものである。

控訴人は被控訴人茅野宅に近接の宅地同所一二六番の二に所在する居宅と共に所有していたが、今から約十五年前に鉄道当局にその官舎として売却した。其の後右鉄道に売却した宅地の余分同所一二六番宅地約一〇〇坪(控訴人所有土地として登記済)に昭和三九年一〇月頃から木造瓦葺二階建約八〇坪の貸アパート兼居宅を建築中である。

三  証拠として乙第四号証の一ないし三、第五号証第六号証の一、二を提出した外原判決の事実摘示と同一であるからその記載を引用する。

理由

控訴人が昭和一二年三月二一日被控訴人茅野の先代訴外茅野市太郎から本件土地を買い受けてその所有権を取得し、これを右市太郎に賃貸し被控訴人茅野が相続により賃借人たる地位を承継したこと、訴外新潟県知事は昭和二二年一〇月二日本件土地について自創法三条一項一号による買収処分をしたこと被控訴人国は本件土地を被控訴人茅野に売渡しその旨の控訴人主張のような登記がなされていること被控訴人茅野は本件土地の賃借中は勿論売渡をうけた後も引続きこれを占有してきたことはいずれも各当事者間に争いがない。

控訴人は右買収に買収令書を控訴人に交付せずなされたものと主張し、被控訴人国も明らかにこれを争わないからこれを自白したものとみなすべく、そして買収令書を交付せずなした買収手続に重大かつ明白な瑕疵があるものと謂うべく、従つて右買収は無効というべきである。そこで被控訴人茅野の時効取得の抗弁について考えると被控訴人茅野が本件土地の売渡処分をうけたことによりその所有権を取得したと信じたことに過失がなかつたかどうかが問題となるのであるがこの点に関する原審証人山岸栄吉の証言及び原審における被控訴人茅野本人の供述はたやすく措信できず他にこれを認める証拠がなく却つて前に認定した通り本件土地の買収手続に重大且つ明白な瑕疵があつて買収は無効であるから、被控訴人茅野は売渡処分により所有権を取得したと信ずるについて無過失ということができない。従つて被控訴人茅野は民法第一六二条第二項による取得時効を援用することが出来ないものと謂うべきである。

そうすると本件土地についてなされた買収は無効であるから控訴人の本訴請求は正当として認容すべくこれと異なる原判決を取消すべきものとし民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条第九三条を適用して主文の通り判決する。

(目録は第一審判決添付のものと同一につき省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例