東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1929号 判決
以上認定の事実に徴すれば、本件契約は典型的な賃貸借契約ではなく、被控訴人は公共用財産である板橋区民会館内の施設であるサロンにおいて、右会館を利用する一般区民等に対するサービスとして喫茶および和洋軽飲食を提供する業務を行う必要から、控訴人にその業務の委託をなし、これに附随して右サロン等本件建物およびその付属品につき、使用料を徴して使用させる(賃貸する)に至つたものであり、従つて控訴人は本件建物の使用についても前記業務委託の面からする制約を受け、すべて前記会館運営という公共の目的を達成するためにそのサロン業務に従属、附随する賃貸借契約を締結したものというべきであるから、本件契約は全体として委任と賃貸借の混合契約ともいうべきものであり、しかもこのような公共の目的に奉仕すべく設定された本件建物の使用関係については、専ら社会政策的見地から借家人の保護を主眼として制定された借家法の諸規定、少くとも同法第一条の二ないし第六条の規定の適用のない民法上の賃貸借関係であると解するを相当とする。(なお昭和三十八年法律第九十八号により地方自治法が改正された結果、本件のごとき公共用財産を含む行政財産の使用については、同法第二百三十八条の四および右改正法附則第十条第一項の規定により、同年四月一日以降全面的に借家法の適用が排除されるに至つた。)尤も昭和三十六年三月三十一日に締結された契約においては、その期間を同年九月三十日まで六ケ月と定めたが、それは被控訴人において同年十月以降本件建物を仮庁舎として、使用する必要があつたので特に右のような期間の定めをなし、控訴人もこれを諒承し、右期間の満了に際しては、本件建物の明渡をすることを約したものであるから、仮りに公共用財産たる建物の賃貸借についても公共の目的に反しない限度で一応借家法の適用がある(前掲地方自治法改正前)との見解をとるとしても、本件においては契約書自体に一時使用の旨が明記してなくとも、その契約の全趣旨からみて、右賃貸借は同法第八条にいう一時使用の賃貸借に該当し、その結果同法の適用なきに帰するものというべきであつて、同法第三条の二により、本件賃貸借を期間の定めのないものとなすことはできない。
控訴人は右契約における期間の定めは控訴人の本件建物使用権の一時停止を定めたものであつて、使用期間についてはその定めがなかつたものである旨主張するが、新庁舎が完成した暁には必ずサロン管業を再開することが確定的であれは、仮庁舎として使用する期間中、本件契約の効力を一時停止しておくような処置をすることは法律上可能であろうけれども、前示のとおり本件契約は区民等に対するサービスを本旨とし、区民の教養および福祉の向上に資する目的に従たる関係にあるから、右目的達成のため、前記会館の使用方法が変更されるときは、これに従たるサロン営業は当然その制約を受けて変更を余儀なくされる関係にあるのであるといえるのであり、しかも控訴人は前記のように仮庁舎として使用するため昭和三十六年九月三十日限り本件建物の使用契約関係を終了してこれを明渡すことを約したのであるから、これをもつて控訴人主張のようにその使用権の一時停止を約したにすぎないものということはできない。なお、右期間が単なる明渡猶予期間にすぎないものとは認められないから、この点に関する被控訴人の主張は失当である。
されば本件契約は期間の満了により、昭和三十六年九月三十日限り終了したものというべきであるから、控訴人は約旨により被控訴人に対して本件建物を明渡すべき義務あるものといわなければならない。
(奥野 野本 海老塚)