大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2147号 判決

(証拠)及び原審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は、胃癌で東京都新宿区筑土八幡町三九番地東京都職員飯田橋病院に入院中の二川寛善から昭和三四年四月頃遺言公正証書作成嘱託の手続及び遺言執行者になることの依頼を受けてこれを承諾し、同人の病状の悪化した同年六月一八日東京法務局所属公証人西川精開の来院を求め、二川寛善の病室において、同人に代り遺言公正証書の作成を嘱託したところ、同公証人は、証人として被控訴人及び訴外村瀬参平立会の下に、二川寛善に対し、同人の口頭による遺言の趣旨を聴取することなく、直に予て同年五月頃被控訴人を通じて諒知した遺言の趣旨を記した草稿を読上げ、既に強心剤を必要とする程度に心臓の衰弱を来たし、身体の自由を失つた同人が頷くや、右書面に基いて本件公正証書を作成し、自ら同人のために代署して捺印させたことが認められる。

公正証書による遺言の方法を定めた民法第九六九条が遺言者の公証人に対する遺言の趣旨の口授を遺言の有効要件と定めている所以は、口頭による意思の表明が遺言時における遺言者の真意を最もよく確め得るがためであるので、右口授は、文字どおり口頭による意思の表明にして、その表明は、他からなんらの制肘ないし影響を受けない、その真意につき疑義をさし狭む余地のない自由にして自発的な表明に限ると解すべきであるので、前認定の如く、予め用意された書面を公証人が読上げ、遺言者が頷いたとて、それは口頭による意思の表明でないのは勿論、前記の意味における真意の表明につき疑いを入れる余地がないと言えないので、本件遺言は、公証人に対する遺言の趣旨の口授を欠くものというべく、方式違背の違法により、その効力は生じない。

(仁分 小山 渡辺惺)

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