東京高等裁判所 昭和38年(ネ)416号・昭39年(ネ)2555号 判決
精神衛生法第三三条の規定を見るに「精神病院の長は、診察の結果精神障害者であると診断した者につき、医療及び保護のため入院の必要があると認める場合において保護義務者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。」とあり、この規定の文言自体からは精神障害者であるかどうかを診断する前提の診察は必らず精神病院の長自からがやるべきものであるとしているものとは解し得ない。むしろこの規定の重点は精神病院の長は診察の結果精神障害者と診断された者について、長自からの責任において医療及び保護の見地から入院させる必要があるかどうかの認定をすることにあるのであり、この認定が積極である限り、保護義務者の同意があれば本人の意思に反しても入院させることができるとするのであつて、その認定の前提となる本人の診察及びその結果にもとずく診断自体は、この規定はその長自からがすると他の者がするとを区別していないものというべきである。もともと「病院の長」とは医療法第一〇条にいう「病院の管理者」に当り、従つて「精神病院の長」とは「精神病院の管理者」と解すべきもの(その後前記法律第一三九号により右精神衛生法第三三条の「精神病院の長」は「精神病院の管理者」と改正された)であり、それなら精神障害者かどうかをきめるべき診察は事の性質上専門の精神科医が当たれば足り、必ずしも精神病院の管理者でなければならないことはない(のみならず後記のごとく管理者が医師であつても、精神科医でない場合があり得る)。もちろん精神障害者を本人の意思に反しても精神病院に入院させるのはその医療と保護のためであつて直接には本人の利益のためではあるけれども、その反面その自由を拘束することとなるから、人権保障の見地からこれを入院させるかどうかの判定はきわめて重要であつて、精神病院の長が自から自己の責任においてこれを行うことが期待されているのである。従つてこの場合この判定の基礎となる本人の診察とその結果にもとずく診断は、長自からが行わず、他の精神科医のしたものでよいとしたからといつても、それは長自からが自己の責任において前記判定をする過程においてこれを採用し得るものとした場合に限るべきことは当然である。かような経過を経たうえで管理者としてその病院を統轄する者が当該精神障害者の病状が入院による医療と保護を要するかどうかを見定め、同時にこれを受入れる病院側の態勢がいかにあるかを勘案し、両者をにらみ合せてこそ、はじめて妥当な結果を得られるのであつて、精神衛生法第三三条の規定はまさに右の趣旨を表現したものと解される。
(浅沼 上野 柏原)