大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)962号 判決

一、控訴人が昭和二十二年八月被控訴人に対して控訴人所有の控訴の趣旨記載の建物(以下本件建物という、但し当時の建坪は二十三坪一合二勺)を賃貸したこと、控訴人が不在者となりその財産管理人である佐藤繁松が被控訴人に対し昭和三十六年三月八日到達の内容証明郵便により、被控訴人は本件建物の西北隅に押入付四畳半一室約三坪(その位置は原判決添付図面の赤斜線の部分)を無断増築したものであることを理由として、相当期間内に右増築部分を収去して本件建物を原状に回復することを催告したが、その履行がなされなかつたので、さらに同月二十三日到達の内容証明郵便により、右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなしたことは、いずれも当事者間に争がない。

二、被控訴人は「控訴人主張の増築部分は、被控訴人が本件建物に居住する以前から存在し、被控訴人はたんにこれを改修したにすぎず、しかも、控訴人はこれを容認していたものであり、仮りに控訴人が容認していなかつたとしても、控訴人に対して右改修により利益を与えたことになつても不利益を与えていないから、右改修は賃借人の背信行為に当らない。従つて、控訴人は無断増築を理由に本件建物の賃貸借を解除することは許されない。」旨主張するので判断する。

証拠を綜合すると、次の事実を認めることができる。

控訴人は昭和十六年頃建坪二十三坪一合二勺の本件建物を建築所有し、自らこれに居住していたが、その後原判決添付図面の赤斜線の部分(但し押入の部分を除く)に四畳半の一室(建坪二坪二合五勺)を増築し、被控訴人が本件建物を賃借した当時には、すでに右増築部分は存在していたものであるが、右増築部分は平屋根であつたため雨水のはけが悪く、被控訴人の賃借後雨漏りが甚だしく、柱も腐朽し、居住にさしさわりを生ずるようになつたので、被控訴人は昭和三十年八月頃控訴人に無断で、大工の訴外戸谷久雄に依頼して、土台のみ残して右四畳半の一室を取り壊し、屋根をトタン葺とし、柱二、三本、根太、床板等を取り替え、天井及び周囲にベニヤ板を簡単に張るなどして、四畳半の一室(建坪二坪二合五勺)を改築するとともに、これに従前なかつた三尺と一間半(建坪七合五勺)の押入を新たに増築したものである。(中略)

上記認定の事実に徴すれば、被控訴人は従前からあつた四畳半の一室が使用に堪えなくなつたため、家屋保存の必要上これを改築したにすぎないものであり、上記の七合五勺の押入部分のみは新たに増築したものであるが、右改築は本件建物全体からみれば、軽微な部分にすぎないし、また本件建物の使用目的たる住居としての用途を変更したものでないのはもちろん、右増改築の形態も構造を変更したというよりも、従来の構造を十分に使用する必要上、また使用に便宜なように修理拡張したものと解するを相当とし、使用価値は従来よりも反つて増大し、賃貸人である控訴人としてもこれにより利益をえたものであり、かくべつ不利益を被つたものということはできない。してみると、被控訴人の右増改築は、賃貸人に無断でなされたものではあるが、上記認定の本件の場合においては個人的信頼関係を基調とする賃貸借契約の賃貸人と賃借人間の信頼関係を破壊するほどの背信行為にあたるものとは到底認められないから、控訴人が被控訴人の右無断改築を理由として賃貸借契約を解除することは、信義則上許されないものといわなければならない。

(村松 伊藤 杉山)

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