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東京高等裁判所 昭和38年(ラ)746号 決定 1964年1月16日

抗告人 丸山雄治

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、本件抗告の理由として、別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

本件記録によると、次の事実が認めることができる。

沢定吉を原告、抗告人を被告とする本件部屋明渡請求訴訟事件は、当初神奈川簡易裁判所に係属したものであるが、抗告人は昭和三十七年一月十二日担当の裁判官山沢和三郎が、抗告人に対し訴の取下の通知をなすべき旨の抗告人の申立に対して故意に決定を遅らせ、これに対する抗告人の抗告を妨害しようとするものであるとして、同裁判官について裁判の公正を妨げる事情があることを理由に忌避の申立をなし、昭和三十七年三月十六日横浜地方裁判所は右申立は理由がないとして却下の決定をなした。抗告人はこれに対し同月二十二日東京高等裁判所に即時抗告をなしたが、同年五月三十日右抗告は棄却せられた。そこで、前記訴訟事件は同裁判官の担当で審理が進められるに至つたところ、抗告人は同年十月十九日神奈川簡易裁判所は正当な理由がなく一年半に亘り訴訟手続を停止したもので、右裁判官はその責任を免れないとして、再び同裁判官忌避の申立をなし、横浜地方裁判所は同年十一月二十一日右申立を理由がないものとして却下決定をなしたところ、抗告人は同年十二月一日東京高等裁判所に即時抗告をなしたが、昭和三十八年三月十五日右抗告も棄却された。神奈川簡易裁判所は、同年五月二十三日民事訴訟法第三一条の二に基いて前記訴訟事件を横浜地方裁判所に移送したので、右事件は横浜地方裁判所において裁判官若尾元の担当で審理されるに至つたところ、同年八月二十八日の第一回(簡易裁判所を通じて第七回)口頭弁論期日に、抗告人は、沢定吉の提起した本訴は不適法で訴訟を進行させることは公正を欠くものであるとして、同裁判官を忌避する申立をなし、同年九月十九日横浜地方裁判所は右申立を理由がないものとして却下する旨の決定をなし、右決定は同年十月五日確定した。そこで、同年十一月二十七日前記訴訟事件の第二回(簡易裁判所を通じて第八回)口頭弁論が開かれたところ、原告の証拠の申出は時機に遅れたものであるのに、若尾裁判官が右申出を認めることは公正を欠くとして、重ねて同裁判官を忌避する申立をしたので、同裁判官は抗告人の右申立は忌避権の濫用であるのみでなく、本件訴訟手続をさらに停止させることは、原告に著しい損害を与え、かつ不当に訴訟を遅延させるおそれがあり、手続を進行させることが民事訴訟法第四二条但書にいう急速を要する場合にあたるものとの理由で、抗告人の忌避申立を却下する決定をなしたものである。

抗告人は、原決定は民事訴訟法第三九条、第四〇条に違反する旨主張する。しかし、右法条は通常の場合についての規定であつて、忌避の申立が濫用された場合には、刑事訴訟法第二四条第二項のように明文の規定はないけれども、忌避された裁判官が自ら却下の裁判をすることができるものと解するのを相当とする。本件においては、上記認定の経過に徴すると、抗告人の本件忌避の申立は明らかに忌避権の濫用にあたると認められるので、忌避された地方裁判所の一人の裁判官である若尾裁判官は自ら抗告人の本件忌避の申立について裁判をすることができるわけであつて、原決定には抗告人の主張するような違法はない。、

また、抗告人は、口頭弁論を行うことは民事訴訟第四二条但書に規定する急速を要する行為にあたらないから、原決定は違法である旨主張するけれども、同法条はこれまた通常の忌避の申立がなされた場合の原則的な規定であつて、忌避権が濫用された場合には右法条は適用の余地がなく、裁判官は忌避の申立を却下したうえ、訴訟手続を停止しないで口頭弁論を命ずることができるものと解するのを相当とするので、抗告人の右主張も採用できない。

さらに、抗告人は本件訴訟手続が進行できなかつたのは、主として原告の怠慢によるものであると主張するけれども、本件記録を精査してみても、抗告人の右主張事実を認めるにたる資料はないので、右主張も採用の限りでない。

よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させて主文のとおり決定する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

別紙 抗告理由書

同裁判官の決定は民訴法第三十九条及び第四十条の違反である。よつて法律に従つて決定を行うことを要求する。

また同裁判官はその理由として民訴法第四十二条の「急速ヲ要スル行為」を適用すると述べたが、これは証拠保全、保全処分などのような特別な行為を指すのであり、口頭弁論を行うことを意味するものではない。さらに口頭弁論を行う理由として同裁判官は原告の著しき損害を避けるためとも述べたが、一年九か月にわたる訴訟の中断が主として原告の怠慢によるものであることを考えれば、これは極めて誇張された意見である。よつて申立の裁判確定に至るまで訴訟手続の停止を要求する。

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