東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)190号 判決
【判決理由】二 そこで以下本件商標を引用商標と対比してその類否を判断する。
(一) 本件商標はその記載自体から明らかなように、「東京」および「阿武隈」の二語からなつているものであるところ、原告は「東京」の文字の部分を除外して類否の判断をすることは許されないと主張する。
しかし、「東京」の文字が著名な行政区画である東京都を意味することは公知の事実に属するから、商標に「東京」という文字を冠するときは、その商標を使用する者の営業の場所(あるいはその営業主の出身地または商品の産地を示すこともあろうが)を示すものとみるのが社会通念上当然の結論であるから、その他の部分において、他の商標と類似するものがあるとすれば、この「東京」の部分は、該他の商標の付された商品の製造販売業者の営業所等を単に付加したものと見られるおそれが多分にあり、両商標の類否を判断する場合においては、この「東京」の部分は、自他商品の識別力を欠く部分として商標の要部をなすものではないと解するのが相当であり、従つて、前記のような構成をとる本件商標にあつても「東京」の文字の部分を除外した「阿武隈」の文字の部分にその要部があるものと解するのが相当である。
もちろん、原告も指摘するように、本件商標のうち「東京」および「阿武隈」との間に区切りはなく、しかもいずれの文字も同じ大きさ、同じ書体および同じ態様で記載されているけれども、このこと自体は商標の要部を認定するについて考慮すべき一つの資料となりうるとしても、このことから、右のような構成をとるすべての商標について、これを一連不可分のものと解さなければならない根拠とはなりえないし、ことに本件商標のうちの「東京」の文字のように、著名な場所を表わす場合には、これをも前記の判断に反して、一連不可分のものと解し、その全体が要部をなすものと解さなければならない理由はこれを見出し難く、この点に関する原告の主張は採用できない。
結局、本件商標については、「東京」の文字を除外した「阿武隈」の文字にその要部があるものと認定すべきものであり、従つて、本件商標からは「トウキヨウアブクマ」の称呼も生ずるであろうが、また単に「アブクマ」の称呼をも生ずるものと解するのが相当であるとともに、この「阿武隈」の文字からは、福島および宮城の両県に亘つて流れるわが国著名の河川である「阿武隈川」の観念をも生ずるものと解するのが相当である。
(二) 他方、引用商標についてみると、この商標の構成は「阿武隈川」の四字の漢字からなつているところ引用商標が被告の営業被承継人である阿武隈川寛およびその先代阿武隈川鉄次郎の氏姓に由来するものであることはその商標登録の経過等から見てこれを了し得るところであるが、右の「阿武隈川」の文字は、福島および宮城の両県に亘つて流れる著名な川の名でもあることもまた公知の事実に属し、この阿武隈川が単に「阿武隈」と略称されて世人に親しまれていることもまた公知であるとともに、簡易迅速を尊ぶ取引界においては、引用商標のようなこの「阿武隈」を含みしかも「阿武隈川」という相当長い称呼を持つ商標にあつては、単にこれを「阿武隈」「アブクマ」と略称称呼する可能性の強いこともまた到底これを否定できないところであるから、引用商標からもまた「アブクマ」の称呼とともに「阿武隈川」の観念を生ずるものといわなければならない。
以上認定したところからみれば、本件商標も引用商標もともに「アブクマ」の称呼を生ずるとともに、「阿武隈川」の観念をも生ずることは明らかであるから、その他の点について論ずるまでもなく、本件商標と引用商標とは類似のものであり、しかも審決が判定した商品の範囲においては、その指定商品が牴触することは明らかであるから、右の商品に関する限り、本件商標の登録は、旧商標法第二条第一項第九号および同第十六条第一項第一号によりこれを無効とすべきものである。(山下朝一 多田貞治 田倉整)
別紙(一) 本件商標
(編注 指定商品旧第八類利器および尖刃器)
別紙(二) 引用商標
(編注 旧第八類園芸用鋏小刀および鋸)