大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)85号 判決

原告の出願にかかる本件実用新案の考案の要旨は、リングAの内周トラベラーと接触する部分に小孔よりなる油孔(1)を設け、この油孔をリングA外の油源に連ならせるようにした自動給油リングにおいて、所要数の小孔よりなる油孔(1)を上下に齟齬させて階段的に設けた構造にあり、その具有する作用効果は、油がリング内面のトラベラー摺動面全域にわたり常に円滑かつ均一に供給され、またトラベラーとリングの摩耗および紡出糸の張力不同が極めて少くなることにあることが認められる。なお本願の説明書の「登録請求の範囲」の項には単に「油孔」と記載されているけれども、同項に引用されている図面および同説明書の昭和三十四年十月六日附訂正書による訂正後の「実用新案の説明」の項の記載を総合すれば、右の「油孔」は給油のための小孔を指すものと解すべきであり、本件審決の判断もまた小孔を前提とすること明らかであるから、本願考案の要旨についての被告の主張は理由がない。

一方前記当事者間に争いのない事実と成立に争いのない甲第六号証によれば、審決に引用された明細書(特許第一一三七六七号「油室ヲ具フル弾性金属製紡織用輪具」)には、第十図に輪具(1)のトラベラーと接触する内周壁に上下に齟齬させて斜めに長孔(17)を穿設し油室の吸収填料から該長孔を通じて滑油を流出供給するようにした給油リングが記載されており、その作用効果はリング内周壁面における滑油の分布面を広からしめ滑油を一様に潤沢に供給することにあることが認められる。

そこで、本願考案と引用例とを対比すると、両者はともに自動給油リングの構造にかかるものであるが、前者は、(イ)リング内周壁に小孔を穿設することと(ロ)右小孔を上下に齟齬させて階段的に配置することとを構成要素とするものであるのに対し、後者は、(イ)リング内周壁に上下に斜めの長孔を穿設することと(ロ)右長孔を上下に齟齬させていることとからなるものであつて、給油孔を上下に齟齬させて設ける点においては両者は異なるところがなく、したがつて両者の構造上の相違は給油孔が小孔であるか、上下に斜めの長孔であるかの点に帰することとなる。ところで前記甲第一号証および成立に争いのない乙第一号証から第三号証までによれば、在来の自動給油リングにおいて、リングの内周壁に小孔よりなる給油孔を同一水平面に設けることは、きわめて普通であることが認められるから、本願考案は右公知の事項に属する小孔を設けることとこれを上下に階段的に配置することとの組み合わせからなるものと解せられる。そして原告が引用例に対する本願考案の作用効果として請求原因の二の(一)において主張する波状摩耗の防止、減圧効果の発生その他の効果はいずれも専ら公知の小孔そのものの作用効果であり、また右の小孔をリングの内周壁に上下に齟齬させて配置したものが、これを同一水平面に設けたものに比し、内周壁の上下にわたり潤滑効果を発揮できることは容易に理解し得るところであるから、本願考案の作用効果とするところは引用例における給油孔を齟齬させて配置することおよび公知の小孔を設けることのそれぞれの作用効果の単なる結合として当然予想される域を出でないものであつて、結局本願考案は引用例における技術思想と出願前公知の事項との単なる湊合に過ぎず、特許と実用新案との間における原告主張のような差異を考慮してもなお当業者が引用例から容易に推考し得るものといわなければならない。

なお、原告は紡績用針布に関する実用新案の登録例を挙げて本願考案の登録性を主張するけれども、右は本願とその対象および具体的技術内容を異にするものであつて、右登録例の存在は本件における裁判所の判断を左右すべきものではなく、原告の右主張は採用し難い。

以上のとおりであるから、本願考案は引用例の記載から容易に推考し得るものとして、原告の請求を容れなかつた本件審決には原告主張のような違法はなく、原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

〔編註〕 本件に関する図面および説明書は左のとおりである。

<省略>

説明書

1、実用新案の名称 自動給油リング

2、図面の略解

図面は本実用新案自動給油リングを示す。

第一図は平面図、第二図はホルダーに取付けた状態の縦断面図である。

3、実用新案の説明

トラベラーとリングにおいて両者の接触部分に自動的に油を供給し油膜を形成せしめるためリング内面のトラベラー接触部に油孔を設けこれによつて摩擦抵抗の減少を計り従来の無給油リングにくらべてトラベラーの回転速度の上昇、抵抗不同の減少、能率の増大等の効果を計ることは通常である。この場合リングのトラベラー摺動面に上下斜に長孔を設けこの長孔より油を流出させることによつてバルーニング張力、糸の巻取径の増大に伴つてリングとトラベラーの摺動面がリング内面において上下に移動するのに対応して摺動面への給油を行うことが試みられたがこの構造では油が出過ぎて反つて弊害がともなう欠点があり、本実用新案はこれに対処する構造である。

図においてAはリングでホルダーBにより外周を狭持させるようなし、又リングの内面には螺旋状に小孔より成る油孔1、1……を多数穿設するもので各油孔は上下位置を互に齟齬させて設けられる。

即ちリング外周に設けた油溝2より夫々異る角度に2個以上の油孔を穿孔する。

例えば各油孔1、1……を結ぶ線を水平線に対しθの角度を有する如くなすものである。而してこの油孔に導油糸4を挿通し貯油槽3より油溝5を通りリング外周油溝2より導入し、リング内面にのぞかせ毛細管現象により、この導油糸を通じてリング内面に油を浸出させるものである。

上述の構造による時は紡出中トラベラーとリングの接触個処は前述の如く絶えづ変化するがいずれの場合においても上下齟齬させて設けた油孔より適量の油が自動的に供給されるので、部分的に油切れの生ずることが防止できる。

本実用新案は上述の如き構造であるから油がリング内面のトラベラー摺動面全域に渉り常に円滑かつ均一に供給され又トラベラーとリングの摩耗及紡出糸の張力不同が極めて少くなる効果がある。

4、登録請求の範囲

図面に示す如くリングAの内周トラベラーと接触する部分に油孔1を設け、この油孔をリングA外の油源に連ならせるようなしたる自動給油リングにおいて所要数の油孔1を上下齟齬させて階段的に設けたる構造。

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