大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(う)1267号 判決

被告人 田中久雄

〔抄 録〕

論旨第一点の二ないし四について。

原判決がかかげている関係証拠によれば、原判示各論第一の各世話人懇談会の参会者に、中山幸市の写真を掲載すると共に、同人が自由民主党から原判示の参議院議員選挙の全国区選出議員の候補者として公認された旨の記事を掲載してある国会写真ニユースや、経済学博士の肩書付きの中山幸市の名刺等を配布し、且つ右各懇談会の席上、中山幸市が、我国の住宅難解決についての抱負や苦学生等に対する文教政策等について語り、かかる問題について国家的な活動をしたい旨を挨拶し、次いで被告人が中山幸市後援会結成の経緯を語り、中山幸市は藤山愛一郎から嘱望されている旨の演説をし、なお予め予定した発言者に座談会を中山幸市推せん会に切り替える旨の動機を提出させ、被告人の取りなしによつて、満場一致でこれを採択させ、又予め予定した発言者に選挙運動の仕方について質問させ、被告人がこれに対して答弁していることが明らかであるが、右の各事実に本件各世話人懇談会開催にいたる経緯を併せて考察すれば、本件各世話人懇談会の開催は、原判決も認定しているように、単なる後援会活動の範囲を逸脱し、後援会活動に名をかりて、中山幸市の原判示選挙のための事前運動と認めるのが相当である。

そして、原判決がかかげている関係証拠によれば、右各世話人懇談会の参会者に提供された菓子は時価五〇円ないし一一二円相当程度のものにすぎず、中には紅白の餠が提供されていることが明らかであり、且つ菓子の提供を受けた右各世話人懇談会の参会者の多くの者は、太平住宅株式会社の社員の家族、同会社の専属工事人又はその家族、下職、雇人及び同会社の契約加入者や出入り商人等同会社と特別の関係がある者であり、右会社に対する義理もあるところから、わざわざ仕事を休んだり、交通費をかけて、右各世話人懇談会に参会したものと認められるから、これを各参会者ごとに個別的に考察すれば、本件各菓子の提供は、中山幸市に特別の縁故のある者が、仕事を休んだり、交通費をかけてまで、わざわざ本件各世話人懇談会に参会してくれた好意に報いようとしたものとして、単なる社交儀礼的のものにすぎないとする見方をすることができないわけではないが、これを全体的に把握すれば、中山幸市後援会世話人懇談会は、全国に百数十ケ所にのぼる会場を設営し、これに万をもつて数える多数の人員を集めて、これに菓子を提供したものであつて、その規模が極めて大きく、又その費用も相当の巨額にのぼつていることが明らかであり、且つ本件各世話人懇談会の開催は、前記認定のように、中山幸市の原判示選挙のための事前運動であるから、本件各菓子の提供は、これによつて、参会者が、中山幸市のために投票し、併せて同人を支持し、同人のために選挙運動をしてくれることを期待してなされたものと認めるのが相当であり、所論が指摘するように、案内の往復はがきに、時節柄茶菓子以外のおもてなしはいたしませんので悪しからず御了承下さいと書いてあつたり、参会者が支出した交通費の方が提供を受けた菓子の価格より高かつたものがあつたとしても、これを単に社交儀礼的のものにすぎないものと認めるわけにはいかない。

もつとも、供与罪が成立するためには、原判決も説示してるように、物品等の提供を受けた者が、その趣旨を認識してこれを収受することを要し、物品等の提供を受けた者にその趣旨の認識がない場合には、供与罪は成立せず、単に供与の申込罪が成立するにすぎないものであるが、本件においては、本件各菓子の提供を受けた者の多くは、前記のように、中山幸市と特別の縁故のある者であり、そのため仕事を休んだり、交通費をかけてまで、わざわざ本件各世話人懇談会に参会した者であり、又右会場で提供された菓子は僅かに時価五〇円ないし一一二円相当程度のものにすぎず、なお会場によつては、湯茶の接待があつたり、被告人がこの程度の菓子の提供は選挙違反に当らないと言明したりした事実もうかがわれるのであるから、これを本件各菓子の提供を受けた者について個別的に考察すれば、その趣旨の認識があつたと認めることには、相当の疑問があるものといわなければならない。

なお、原判決は、本件各世話人懇談会は参議院議員選挙の直前に開催されたものであること、すなわち当時は既に各政党とも右選挙に備えて公認等の手続を終え、これが氏名等は新聞紙上等に報道され、中山幸市自身も自由民主党の公認候補者であつたこと、各世話人懇談会々場の入口並びにその正面には中山幸市の氏名を大書した懸垂幕或いは横断幕がかかげられていた等の事実からすれば、本件各菓子の提供を受けた者はいずれも右懇談会に出席する以前に或いはその出席により右懇談会の目的を看取し、更に又本件菓子提供の趣旨を察知したものと認め得ないわけではなく、少くとも(一)右懇談会において被告人或いは中山幸市の各発言を聴取し、右会場の空気を看取したもの、(二)懇談会当時中山幸市後援会に入会していたもの或いは太平住宅株式会社々員の家族、下請工事人の家族、その雇人等中山幸市を熟知していたもの等の出席者は、特段の事情のない限り、その者の自供を俟つまでもなく、すべて本件各世話人懇談会の目的を看取し、更に又本件各菓子提供の趣旨を察知していたものと認定すべきである旨を説示しているが、これらの出席者が本件各世話人懇談会の目的は察知していたとしても、前記のような諸事情を考慮すれば、右のような事実があるからといつて、直ちに、右出席者が提供された本件各菓子の趣旨までも察知していたものと認めるについては、疑問の余地がないとはいいきれない。

結局、本件各菓子の提供を受けた者にその趣旨の認識があつたと認めることには疑問があるのであるから、被告人に対しては供与の申込罪を認めるのが相当であり、これを供与罪と認定した原判決の事実認定には事実の誤認があつたものというべく、右事実の誤認は明らかに判決に影響を及ぼすものと認められるから、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。

(白河 河本 藤野)

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