東京高等裁判所 昭和39年(う)1530号 判決
被告人 桜木浩一 外一名
〔抄 録〕
所論は、原判決末尾添付の犯罪一覧表一ないし三、六ないし一〇及び一三の各所為については、税務官吏に対して虚偽の申立又は申告をした事実はなく、単にこれを所轄税務官吏の検査に供すべき正規の帳簿に記載せず、且つ毎月所轄税務署に提出すべき課税標準申告書を提出しなかつたにすぎず、詐偽その他の不正の行為に当るべき積極的な行為がないから、昭和三七年法律第四八号による改正前の物品税法第一八条第一項第二号違反の罪が成立するいわれがないと主張している。なるほど、記録によれば、所轄税務官吏が被告会社に調査に行つたのは、本件各所為の全期間を通じて昭和三六年三月三日と同年一〇月一三日の二回だけにすぎないことが明らかであり、又同罪が成立するためには、詐偽その他の不正の行為が積極的に行われることを要し、かかる行為を伴わないいわゆる単純不申告の場合には、同罪が成立しないとされていることは、いずれも所論の指摘するとおりである。しかし、右にいう詐偽その他の不正の行為を積極的に行うということは、必らずしも、所論のように二重帳簿を作成すること、正規の帳簿に虚偽の記載をしたり、これを破棄又は毀損すること、税務官吏に虚偽の申立又は申告をすること、税務官吏を買収したり、これを脅迫すること等積極的に不正行為をする場合に限らず、同法が、同法所定の物品の製造者又は販売者に、その製造、貯蔵又は販売に関する事実を所定の帳簿に記載すべきものとしている趣旨に徴すれば(同法第一六条第一項、同法施行規則第三七条参照)、物品税を逋脱する目的で、ことさら、物品を製造場から移出してこれを販売した事実を全く正規の帳簿に記載しないで、その実態を不明にする消極的な不正行為も、その実体においては、正規の帳簿にことさら虚偽の記載をした最も極端な場合に限り、又その結果においては、少くとも正規の帳簿を破棄した場合と少しも変りないのであるからまた右にいう詐偽その他の不正の行為に当るものと解するのが相当である。ところで、記録及び証拠物を精査し、且つ当審の事実取調の結果を検討すれば、被告会社の総勘定元帳及び金銭出納帳には全く本件猟統を製造場から移出してこれを販売した事実の記載がなく、且つ他に同法所定の事項を記載した帳簿もなく、なお納品複写簿、納品受領書綴又は納品書綴によつても、被告会社が本件猟統を製造場から移出してこれを販売した実態、特にその販売価格が殆んど不明であること及び被告人桜木浩一には物品税逋脱の意図があり、同被告人が物品税を逋脱する目的で、ことさら、正規の帳簿に、本件猟銃を製造場から移出してこれを販売した事実を記載しなかつたことが明らかであるから、同被告人には詐偽その他の不正の行為があつたものというべく、従つて、原判決が右各所為を前記物品法第一八条第一項第二号違反の罪に該当するとしたことは正当というべきである。
(加納 河本 清水)