大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(う)1628号 判決

被告人 阪田栄吉

〔抄 録〕

控訴趣意第一点の一は原判決には審判の請求を受けない事件について判決した違法がある、と主張するものである。しかし本件起訴状に記載された事実は「被告人は昭和三九年三月一八日午後四時ころ、千代田区麹町四丁目一番地附近の交差点道路において、普通乗用自動車を運転し、時速約三〇キロの速度で直進する際、ハンドルを左に切つて前方約三〇メートルにいる右折車の後方を通行するとき左後方の安全を確認せず、漫然ハンドルを左に切つて進行したため、左後方より直進して来た普通貨物自動車に接触し、もつて他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転した」というのであり、原判決の認定した事実は「被告人は前記同日時場所において、普通乗用自動車を運転し時速約三〇キロで軌道敷内を進行中、前方に右折車がその態勢で停止していたのであるから、その後方を通行するには事前に進路変更の合図をし、かつ、左側および左後方の安全を十分に確認してから進路を変えるべきであるのに、それをせず、漫然ハンドルを左に切つて進行したため、左側を直進していた平野忠蔵運転の普通貨物自動車に接触し、もつて他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転した」というのであつて、訴因たる事実も原判決認定の事実も、ともに同一日時場所において、被告人が尽すべき注意を怠り漫然ハンドルを左に切り、もつて他人に危害を及ぼすような速度と方法で自動車を運転した事実である。そして「他人に危害を及ぼすような速度と方法」のうち、その方法についての両者の表現に多少の差異の存することは所論のとおりであるが、起訴状の記載は(その表現にやや適切でないものがあるが、)要するに、直進して来た被告人の車が前方に在つた右折車を避けて、進路を左に寄せるためにハンドルを左に切つた際、左後方の安全を確認すべきであつたのに、それをせずに漫然ハンドルを切つたことが他人に危害を及ぼすような方法であるとし、ハンドルを切つた処を右折車より約三〇メートル手前と表示したものと諒解される。これに対し原判決は被告人の車が直進して来たのは、証拠上明らかなとおり、電車軌道敷内であつたこと、及び漫然ハンドルを左に切つた情況の具体的説明として、事前に進路変更の合図をすべきであるのにしなかつたことを示し、ハンドルを切つた地点が証拠上明確でないところから、起訴状記載の如き右折車の手前三〇メートルということは摘示しなかつたのみで、他人に危害を及ぼすような方法として、起訴状と同じく、左後方の安全を確認しないで漫然ハンドルを左に切つたことを判示しているのであるから、公訴事実と原判決の認定した事実との間には基本的事実関係に何等の変更はなく、同一性のあることは勿論、訴因の変更を要する場合でもない。原判決に審判の請求を受けない事件について判決した違法の廉はなく、所論は理由がない

(三宅 寺内 谷口)

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