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東京高等裁判所 昭和39年(う)2242号 判決 1965年2月25日

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

<前略>

又、公職選挙法は、同法第二二一条第一項第一号及び第四号で、金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与罪及び受供与罪を規定したほかに、同条同項第五号で、特に金銭若しくは物品の交付罪及び受交付罪を規定している。交付罪及び受交付罪は、もともと、二人以上の者が共謀して、特定候補者のために、その当選を得若しくは得させない目的で、選挙人又は選挙運動者に対して、金銭若しくは物品を供与する罪のいわば予備行為を特に独立の犯罪として規定したものであり、右目的で、選挙人又は選挙運動者に供与させるために、選挙運動者である仲介人に、金銭若しくは物品を寄託して、その所持を移転する行為及びその寄託を受けて、その所持の移転を受ける行為を内容とするものであるから、右金銭若しくは物品の交付を受けた選挙運動者である仲介人が寄託の趣旨に従つて、更にこれを選挙人又は選挙運動者に供与した場合には、交付者との共謀による供与罪だけが成立し、その予備行為にすぎない交付罪及び受交付罪は右供与罪に吸収され、独立の犯罪として処罰の対象となることはない。しかし、金銭若しくは物品の供与罪及び受供与罪は、受交付罪とは違つてそれ自体独立の犯罪として規定されたものであり、右目的で、金銭若しくは物品を選挙人又は選挙運動者に提供して、相手にその利益を帰属させる行為及びその利益の帰属を受ける行為であり、受供与者が供与を受けた金銭若しくは物品を、更に、右目的で、選挙人又は選挙運動者に供与した場合は、受供与者が、一旦自分の手中に帰属した金銭若しくは物品を、改めて、自分の責任と裁量で、選挙人又は選挙運動者に供与したものであるから、たとえ、第一次の供与者が、受供与者すなわち第二次の供与者が、供与を受けた金銭若しくは物品を更に選挙人又は選挙運動者に供与することを認識しており、一般刑法上の観念に従えば第一次の供与者と受供与者すなわち第二次の供与者との間に、受供与者すなわち第二次の供与者がした第二次の供与について、意思の連絡があり、従つて右両者が第二次の供与罪の共謀共同正犯と認められるような場合であつたとしても、受供与者に対して、受供与罪が成立するほかに、別に供与罪が成立するものと解するのが相当であり、これを交付罪及び受交付罪の場合と同様に論じ、供与者と受供与者との共謀による第二次の供与罪だけが成立し、それに先立つた第一次の供与罪及びその受供与罪が右第二次の供与罪に吸収され、独立の犯罪として処罰の対象とならないとすることはできない。ところで、原判示第一の一ないし三の各所為は、原判決が認定しているとおり、被告人石井が、被告人幾島に対し、自分の当選を得る目的で、自分のために投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動を依頼し、その費用及び報酬として、各金員を提供し、これを被告人幾島に帰属させて供与したものであることが明らかであり、又原判示第二の一の(一)ないし(三)の各所為は、被告人幾島が被告人石井が右の趣旨で供与するものであることの情を知りながら、各金員の提供を受け、これを自分に帰属させて供与を受けたものであることが明らかであつて、供与罪及び受供与罪が成立することが明らかであるから、これを単に右両者側の内部的な選挙運動着手前の準備行為にすぎないものとして不問に付するわけにはいかない。<以下―省略>

(加納駿平 河本文夫 清水春三)

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