大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(う)2256号 判決

被告人 猪瀬征次郎 外五名

〔抄 録〕

弁護人の論旨について。

被告人猪瀬征次郎の原審公判廷における各供述、同被告人の検察官に対する昭和三八年五月一七日付及び同月一八日付各供述調書の各供述記載、証人鈴木キンの原審公判廷及び当審公判準備期日における各証言並びに金銭出納帳の写に徴すれば、被告人猪瀬[イ正]次郎は、自分の個人的な知り合い先に対して香奠や病気見舞等を出していた外に、同人が専務取締役となつて経営している主食販売業有限会社梅屋商店の顧客先に対しても五〇〇円ないし一、〇〇〇円程度の香奠や病気見舞等を出していたことが明らかである。そして、右各証拠に被告人猪瀬征次郎の原審公判廷における証言、被告人伴操一の原審公判廷における供述及び証言並びに同被告人の検察官に対する昭和三八年五月一三日付供述調書中の供述記載と被告人藤田典次の原審公判廷における供述及び証言並びに同被告人の検察官に対する各供述調書の各供述記載をそれぞれ併せて考察すれば、被告人猪瀬征次郎が被告人伴操一に対して供与した金一、〇〇〇円は、被告人伴操一の実父が昭和三八年二月一一日死亡したが、かねて故人とは親交があつたので、当然その当時香奠を出すべきであつたところ、故人が創価学会に入会していた関係上、その葬儀が同学会葬で営まれ、香奠は全部同学会に持つて行かれてしまうときいていたため、後で出そうと思つている内に、たまたま被告人伴操一方入口附近で同被告人に出会つたので、故人に対する供物料として同被告人にやり、被告人伴操一がこれを受け取つたものであり、又被告人猪瀬征次郎が被告人藤田典次に対して供与した金一、〇〇〇円は、被告人猪瀬征次郎が、同被告人の借家人であり、且つ前記有限会社梅屋商店の顧客先である被告人藤田典次が手に大怪我をして休業中であることを知つたので、右会社の事務員鈴木キンに命じて見舞金として同被告人にやり、被告人藤田典次がこれを受け取つたものと認めるのが相当であつて、右各金員の授受はいずれも通常の社交儀礼的のものと認めるのが相当である。もつとも、右各金員が授受された時期を考慮すれば、被告人猪瀬征次郎が、その肚の中では、被告人伴操一又は被告人藤田典次に対して供物料又は見舞金をやることによつて、同被告人等の歓心を買い、もつて多少でも自分の選挙を有利にして当選を得ようとする下心を持つていたことは否定することができないものと思われ、現に被告人猪瀬征次郎も、原審公判廷において、不義理をしていては選挙のことが頼みにくいので、義理を果たしておくために供物料又は見舞金をやつたものであると供述しているとしても、被告人猪瀬征次郎が被告人伴操一及び同藤由典次に対してそれぞれ供与した右各金員は、被告人猪瀬征次郎が従来知り合い先又は顧客先に出ていた香奠又は病気見舞等と較べて特に多額のものではないことが明らかであり、且つ世間一般の慣習からみても特に多額のものとは認められないから、通常の社交儀礼上のものと認めるのが相当であり、これをもつて、自分の当選を得る目的をもつて、投票取り纒めの選挙運動を依頼し、その報酬謝礼とする趣旨を含めて供与されたものと認めるのは相当でない。従つて、被告人猪瀬征次郎と被告人伴操一又は被告人藤田典次との間にそれぞれ供与罪及び受供与罪を認定した原判示第一の一の(1)及び(2)並びに第三の一及び二の各事実認定には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があつたものというべきであるから、論旨はいずれも理由がある。

(加納 河本 清水)

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