大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(う)2636号 判決

被告人 川島香

〔抄 録〕

所論は、原判示第二(1)の別紙犯罪一覧表11に記載されている原判示被害者丸茂玄から金二、〇〇〇円を騙取した旨の事実について、被告人は、右金員の交付を受ける際、相当価値のある時計を右丸茂に提供しているから、金二、〇〇〇円の消費貸借とみるべきものであり、また、右犯罪一覧表4に記載されている原判示被害者藤野花子からオーバー一枚(時価一五、〇〇〇円)を騙取した旨の事実について、被告人は、右オーバーを借り受ける際、右藤野の諒承を得たうえ、同女に対し、自己の純毛オーバーを残しているから、合意のもとに、右藤野のオーバーとが交換されたものとも解することができるので、原判決の右11・4の両事実には、事実の誤認があるという旨の主張に帰着する。

しかし、原判示第二(1)の別紙犯罪一覧表記載の11および4の各事実は原判決が右両事実につき証拠として採用している被告人の原審第一回公判調書中の供述記載、被告人の司法警察員に対する昭和三九年八月三一日付(一六枚のもの)、同年九月一八日付、同月三日付(二通、一〇枚のものと二枚のもの)各供述調書、被告人の検察官に対する昭和三九年九月三〇日付供述調書、藤野花子提出の昭和三九年八月二六日付被害届二通、藤野花子の司法警察員に対する昭和三九年八月二〇日付、同月二六日付各供述調書、丸茂玄提出の被告届、丸茂玄の司法警察員に対する供述調書によれば、被告人は、当初から所論原判示被害者丸茂玄および同藤野花子の両名に対し、真実に反する事実を告知して右両名を錯誤におとしいれた点をも含めて、原判示の右両事実を十分肯認することができる。そして、犯人が真実を告知するにおいては、たとえ相当対価を提供しても、相手方が財物を交付しないような場合に、あえて真実に反する事実を告知して相手方を錯誤におとしいれて、財物の交付を受けた以上は、詐欺罪を構成し、授受された対価の相当であることは同罪の成立を妨げないものであるところ(昭和一六年(れ)第一七〇〇号同一七年二月二日大審院第一刑事部判決、刑集二一巻七七頁参照)本件において、被告人は、前記丸茂玄に対し時計を預け、また、前記藤野花子のところに、被告人の着ていたオーバーを置いていつたことは、所論のとおりであるが、被告人に当初から右両名を欺罔することの意思のあつたことは、前示のとおりであるから、たとえ、相当対価を提供したにしても、右判例の趣旨にてらし、被告人の右両所為を目して、これを所論のように消費貸借であるとか、交換であるということはできない。したがつて、原判決には所論のごとき事実の誤認はないから、論旨は理由がない。

(小林健 遠藤 吉川)

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