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東京高等裁判所 昭和39年(う)61号 判決 1965年2月01日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

所論は、原判決は被告人等の本件所為に対し本条例第一条第五条を適用して処断しているが、本件当時の本条例第一条には、集団行動の許可を管掌する機関は「公安委員会」なる旨規定されており、右は本条例制定当時施行されていた、改正前の警察法(昭和二二年法律第一九六号、以下旧警察法と称する。)の関係条文及び本条例第三条第四項を総合すると、旧警察法の定める自治体警察を所轄する公安委員会即ち東京都特別区公安委員会を指すものであるところ、これらは昭和二九年七月一日法律第一六二号警察法(以下新警察法と称する。)の施行に伴い廃止され、同時に改正施行された本条例(以下改正条例と称する)第一条は、許可管掌機関を「東京都公安委員会」と改めたため、許可管掌機関は右改正前とは全くその性格を異にする別個のものとなるに至り、しかも改正条例は、改正前の本条例(以下旧条例と称する。)施行当時の許可管掌機関がなした行為の効力につき何ら規定していないから、改正条例の施行に伴い旧警察法当時の東京都特別区公安委員会を許可管掌機関としていた旧条例は失効し、現在においては、被告人等の本件集団行動につき許可を所掌事項とする行政機関は存在せず、旧条例第一条は現実に作用するの由なきに帰し、同条例第五条の罰則も適用の余地なく失効したものであつて、本条例違反の公訴事実については犯罪後の法令により刑が廃止された場合に該当するから免訴の判決をなすべきであつたのに、原判決がこれを看過して本条例違反の罪責を問うたのは判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続上の法令違背を犯したものであるというにある。しかしながら、旧条例第一条にいう「公安委員会」とは単に管轄の公安委員会という趣旨に解すべきであり、また同条例第三条四項は、右公安委員会が申請を許可しなかつた場合に関する規定であつて、警察法改正後においても、同条例が集団行動の許可管掌機関を特に旧警察法に基づく東京都特別区公安委員会に限定していた趣旨に解するのは相当でなく、新警察法施行後は、当然に同法に基づく東京都公安委員会が右許可管掌機関に当るものというべきである。何故ならば改正条例第一条が集団行動を行うに当り、あらかじめ東京都公安委員会の許可を受けることを要する旨規定しているのも、旧条例と同様集団行動により明らかに公共の安寧を害するような事態の発生を予防するためであり、本件の如き無許可集団行動を処罰することの必要性は、旧警察法に基づく東京都特別区公安委員会が廃止され、新警察法に基く東京都公安委員会がこれに代るに至つたことにより、何ら影響を受けないものと解するのが相当であるからである。(最高裁判所第三小法廷、昭和三六年(あ)第一四二七号岐阜県条例違反被告事件、昭和三九年九月二九日判決の趣旨参照)。されば旧警察法に基づく東京都特別区公安委員会が廃止されたことを根拠として旧条例が現実に作用することができなくなつたとの観点に立つ論旨は失当であつて理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)(小林健治 遠藤吉彦 吉川由己夫)

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