大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(う)637号 判決

被告人 宮下弘治 外四名

〔抄 録〕

所論は要するに、被告人等は長野郵政局長に対し団体交渉の再開を求めたところ、同局長は郵政省からの指示に基き、違憲無効の公共企業体等労働関係法(以下公労法と略称する)第四条第三項を根拠として団体交渉再開要求のための面会を拒否するので、被告人等はやむなく本件団体行動に出たものであり、その行為は労働組合法第一条第二項の正当行為に該当し、刑法第三五条の適用があるべきである。然るに、原判決は労働組合法第一条第二項の解釈適用を誤ると共に事実を誤認し、被告人等の所為に対し刑法第三五条を適要しなかつた違法があると主張するに帰する。

よつて按ずるに、公労法第三条により、公共企業体等の職員の労働組合に適用される労働組合法第一条第二項で認められる労働組合の団体交渉その他の行為であつて、同条第一項に掲げる目的を達成するためにしたものであつても、無制限にこれを許容するものではなく、それが個人の生命、身体、自由、財産権等の侵害を伴う場合には、これら個人の基本的人権と憲法第二八条が保障する労働者の権利との比較考量の上、自から正当性の限界が存するものと謂うべきである。殊に、同条第二項但書により、いかなる場合においても暴力の行使は、労働組合の正当な行為とは解釈されてはならないとされているのであるから、仮りに、使用者側の団体交渉拒否が労働組合法第七条第二号の不当労働行為に該当したとしても、その場合には公共企業体等労働委員会に提訴するなり、司法的手続による救済を求めるべきである。いわんや、使用者側において、格別暴行、脅迫等の暴力を用いたものでないのに対し、強いて団体交渉に応ぜしめようと、集団交渉の上、暴力をふるうが如きことは暴力を否定する現在我国法秩序の下においては到底是認されないところである。

そこで、本件についてこれを見るに、(長野郵政当局の団体交渉拒否が正当であつたか、又、信越地本の本件団体交渉再開を求める集団行動が労働組合法第一条第二項の「その他の行為」に該当するか否かの点については後述する)原判決の判示するところによると、長野郵政局は信越地本傘下の組合員等が団体交渉再開等の要求事項を掲げて集団交渉を求めてくるとの情報を入手し、予てからの郵政省の指示に基き右集団交渉には応じないことゝし、長野郵政局々舎正面玄関に管理職々員等約一〇名位でスクラムを組み組合員等の入局を阻止したところ、午前九時三〇分過ぎ頃被告人等は二百四、五十名の組合員等と共に右管理者達のピケを排して局舎内に侵入し(建造物侵入は起訴されていない。)隊伍を組んで気勢を揚げつゝ廊下を進行して貯金部事務室入口(同室内で並木局長が執務していた)に至り、同所でピケを張つてその入室を阻止していた三〇名位の管理職々員等を実力を以て排除して室内に入ろうとして原判示の如く同人等の手足を引張り体を抱える等していわゆる「ごぼう抜き」の暴行を敢えてし、一部管理者側に負傷者を生ぜしめたものであるから、右のような暴力の行使は到底労働組合法第一条第二項所定の正当行為ということはできない。原判決が被告人等の所為を労働組合法第一条第二項に該当せずとして刑法第三五条を適用しなかつたのは正当であり、原判決には所論の如き違法は認められず論旨は理由がない。

(石井 山田 田黒)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!