大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(ツ)82号 判決

上告人 子安惣一郎

被上告人 粕谷慎一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について

本件記録によつて、被上告人の訴状その他をみれば、被上告人の本訴請求はいわゆる経界確定の訴であつて、上告人主張のように、所有権確認の訴でないことが明かである。本件のように、地番の経界が不明である場合には、一方の地番の土地所有者が隣地の所有者を相手方として土地所有権そのものの確認ではなく、経界そのものの確定を求める訴は、古くローマ法以来認められており、わが国でも裁判所構成法では区裁判所の事物管轄でこれを規定していた。経界線そのものが不明な場合には、右土地の所有権の確認を求める以外に、経界線そのものを確定する訴を認める利益が存在するから、右のように、古くからこの訴が認められていたのであつて、これに代る特別の訴その他が認められていない以上、現在においてもその利益の存在は否定することはできない。この訴は、民事訴訟法によらせているが、その実質が非訟事件であることは上告人主張のとおりであり、経界確定の訴によつて経界線が確定せられた場合に、直接に、両隣接土地の所有権の所有権そのものを確定することにはならないが、両隣接土地の所有権の範囲を推認させる有力な資料となることは、上告人主張のとおりである。しかしながら、上告人主張のように、経界確定の訴を否定して、所有権確認の訴のみを認めるとすれば、真に隣接両地の所有権の経界線が不明な場合には、訴を提起した者は、常に、係争地について自己の所有権についての立証が困難になり、そのため敗訴の結果を免れることを避けることが困難になり、その結果、右係争地が両当事者いずれの所有に属するかの積極的の確認を求めることができなくなるという、当事者にとつては極めて不利益な結果を招くと共に、行政的にも、社会的にも経界線の不明という法律的な紛争を永久に解決ができないという、極めて不合理な結果をもたらすことになる。このことからしても、係争地についての所有権確認の訴の外に経界確定の訴を認める必要と利益があるのであつて、後者を独立の訴として認めることは、国民の権利の保護にもなるのであるからこの訴を認めることは憲法第二九条に反しないものといわなければならない。また、被上告人の本訴請求が経界確定の訴であることは、上記判示のとおりであり、右訴が所有権確認の訴と別個に存在することも右記判示のとおりであるから、本訴を原審が経界確定の訴として審理判断したのは、もとより適法で、憲法の規定に反するものでもない。上告人の主張は、独自の見解に基いて、原判決を非難攻撃しているにすぎないから、理由がない。

上告理由第二点について

経界確定の訴が実質は非訟事件であることは、上段で判示したとおりであるが、訴訟によらせている以上、訴訟費用の負担について民事訴訟法によつて定めるのも当然である。その判決は実質的にみても、当事者の主張に対比して、その請求を認容したかしないか、或はその一部を認容したかどうかということが、必ず云えるものである。従つて、訴訟費用を常に必ず原告に負担させることなく、民事訴訟法に定める訴訟費用の負担の原則に従つて、実質的にみて敗訴者に負担させることが、憲法に違反しているとはいえない。

本件についてみれば、訴訟費用を全部上告人に負担させた原審の判断は相当で、上告人主張のように違法であるとはいえない。本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条によつてこれを棄却し、上告審での訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用して、主文のように判決する。

(裁判官 村松俊夫 江尻美雄一 杉山孝)

別紙 上告の理由

第一点原判決は憲法第二十九条に違反する。

一、本件事案に境界確定の訴の形式並に手続を適用するのは憲法第二十九条に違反する。

相隣接する土地に於て公簿上の地積が実測の地積より狭い場合は、その係争境界線が他地に入り相交錯することは明白であるから、かような場合両地番の境界を非訟事件的性質を有する単なる境界確定の訴に依り、土地行政事務的に定めることは名目は訴訟の形式をとつても、適法な訴訟手続に依らないで財産権を侵害することとなり、財産権保障の憲法第二十九条の規定に反する。

二、境界確定の訴が非訟事件的性質を有する特殊の訴訟形式として妥当するのは、土地制度や測量技術等の整備されない往昔からの山林や原野に於て、公簿上の地積より実測の地積が広い場合である。かゝる場合、その余分の地積の帰属をきめる為めに、相隣接する土地所有者はその部分の所有権は立証出来なくても、土地行政事務の一部として公権的に両地番の境界を確定して貰い、それに依つて必然的に相隣接する各土地所有者にその地番に対応する地積として拡張され、その部分の所有権につき推認を得せしめようとするに外ならないのである。

三、従つて本件の如く、必ず境界が互に交錯することが明白な場合は、この訴に適せず、当事者は必ず所有権の確認(地積及図面に基く土地所有権の範囲の確認)を求むるか或はそれに依つて自己の所有権に属する部分の明渡を求める給付訴訟に依らなければならぬ。

この訴訟手続に依らなければ、所有権の立証なくして、所有権の範囲を推認することとなり又所有権の立証なくして事実上明渡を求める効果を与える虞がある。原審判決は本件手続に於て土地売買、所有権取得の範囲迄も推認して居る。

四、従来の学説、判例に依れば、境界確定の訴は所有権に基く境界確認の訴とその性質を全く異にし、前者は非訟事件的な土地行政事務を便宜事案の重要性に鑑み、裁判手続を経て公権的に地番の境界を定めるのみであるから、何ら所有権の有無と関係なく、従つてその判決には所有権確認の既判力もなく、況して明渡の執行力もないものとされて居るから、控訴人はこの判決だけで直接的に所有権を侵害されたとは言えない。

五、然し乍ら、地番の境界の確定のみでは、何ら所有権の既判力や執行力は生じないとは言え、前項に述べた如く、これが地番に応ずる地積の所有権につき一応の推認を受けたものであるが、かような推定を与えるが如き判決は控訴人の主張する土地所有権の範囲と矛盾するものであるから、かような場合境界確定の訴で審理すること自体が既に所有権侵害の虞あり、従つて又この訴に基く原審判決は憲法の規定に違反するものと言わなければならない。

第二点

原判決は訴訟費用の負担につき、その法令の解釈並に適用を誤り、之亦財産権の不当の侵害で、憲法の規定に違反する。仍て原判決はこの理由に於ても破棄されなければならない。

即ち境界確定の訴は地番の境界の不明の場合訴訟の形式を用いて、単に公権的に決めようとするもので、正確には所謂民事紛争ではなく、従つて訴訟法上の勝訴敗訴はない。控訴人には、被被控人に対し債務又は義務の不履行ということはなく、従つてかような場合には、これを積極的に自ら明らかにしたいと念ずる者が判決の如何に拘らず、すべての訴訟費用を負担すべきものである。

仮りに之が当らないとするも少くとも各自弁とすべきものである。

右の通り上告致します。

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