大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)1111号 判決

本件賃貸借においては賃借人が建物の全部一部を有償で他に転貸した場合には直ちに契約を解除せらるべき旨の特約(原判決摘示の請求原因二の(ハ)記載)が存し、それは家屋賃貸借につき世上一般に行われている無断転貸禁止の特約と異なり、表面賃貸人の承諾の有無に拘らしめていないところから、被控訴人は、右特約には民法第六一二条の適用が排除され、賃借人が公団住宅を第三者に有償転貸することは被控訴人の承諾の有無を問わず絶対に許されないものであり、また被控訴人において右承諾を与えることも法規の建前上不可能である故、有償転貸の事実さえあれば、即時解除権が発生する旨主張する。

思うに、被控訴人公団は公共企業体の一種としてその組織、運営等について法律による規制を受け、特定の者が被控訴人の賃貸住宅に入居しこれを使用しうるためには、日本住宅公団法その他関係法規の定める規準に合致し、かつその使用許可手続を履践しなければならない。すなわち住宅に困窮している者であること等一定の入居資格ある者(日本住宅公団法施行規則第一三条、日本住宅公団業務方法書第二一条)が公募され(施行規則第一二条、業務方法書第二〇条)抽せんその他公正な方法で選考され(施行規則第一四条、業務方法書第二四条)たうえ、さらに所要の手続を経て始めて賃貸住宅を使用することができる旨定められている。しかしかような手続がすまされたうえで、被控訴人と入居者との間に設定される賃貸住宅の使用関係は、本来権力の行使を本質としない一種の管理関係であり私法上の賃貸借契約そのものである。それは、関係法令がこれを否定すべきなんらの規定を有せず、日本住宅公団法自体が民法第四四条、第五〇条、第五四条の準用を定めている(同法第九条)点からも、また相当額の賃料および敷金等の支払と賃貸住宅への入居、使用の承認とを相互の対価とする取引関係が右利用関係の実体をなしている点からも明らかである。したがつて被控訴人の賃貸住宅の転貸、賃借権譲渡についても民法第六一二条が適用されるべきである。そして地方公共団体の行う公営住宅賃貸の場合においては公営住宅法第二一条第二項により転貸賃借権譲渡が絶対的に禁止され、一部転貸についても事業主体の長の承認にかゝらしめられ、民法第六一二条の規定する以上に強く譲渡性が制限されているけれども、独立法人たる被控訴人公団が独立採算制の下に所定の入居基準収入額ある者に限定して行う公団住宅の賃貸の場合にあつては、日本公団住宅法がその後の制定にかかるに拘らず、特にかような制限規定を設けていない点よりみて、仮令事業の実施面ではその例がとぼしくとも、成法上被控訴人はなおその所有の公団住宅につき賃借権譲渡、転貸に対する承諾を与える権限を全く失わしめられているのでなく、したがつてまた前記特約は、一部の有償転貸のときに限らず全部転貸の場合でも、被控訴人の承諾によつてその適用の排除されうる余地があるものと解するのが相当である。この点に関する日本住宅公団法第三三条、同法施行規則第四一条第四二条による日本住宅公団業務方法書(昭和三〇年住宅公団規程第六号)第二五条第四号、日本住宅公団賃貸住宅管理規程(昭和三一年住宅公団規程第八号)第一九条および右管理規程第二条にもとづき様式第一号により作成されたと見られる本件賃貸借契約書第一七条の各規定も右解釈を妨げるものではない。ただ、これらの規定は入居者の資格、募集、選考等についての前記諸規定と相俟つて、公団住宅の賃貸借関係が帯有する公益性を表示するものである故、その趣旨は無断転貸の場合における背信性の判断にあたり、重く斟酌されるべきであると考える。

(奥野 萩原 真船)

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