東京高等裁判所 昭和39年(ネ)1130号 判決
一、被控訴人は、「被控訴人は昭和二五年二月頃小糸長兵衛から、本件係争部分を承役地とし、被控訴人所有の前記三一番の一一、宅地八二、六四平方米(二五坪)を要役地とする地役権の設定をうけた。」と主張し、原審(第一、二回)および当審における被控訴人本人の供述の中には、被控訴人の右の主張にそう部分があるけれども、右供述は、原審および当審証人小糸精太郎の証言と比較検討してみて、採用することができず、他に被控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない(なお、ある土地を材料置場に使うための地役権なるものはない。)。
二、被控訴人は、かりに被控訴人が契約により地役権を取得したという事実がないとしても、被控訴人は本件係争部分につき地役権を時効取得した、と主張する。しかし、地役権を時効により取得するには、それが継続かつ表現のものであることを必要とするほか、時効取得の一般的要件をそなえることを必要とすることはいうまでもないところ、通行地役権が継続のものといえるためには、要役地の所有者が承役地に道路を開設して通行しているということがなければならないものであり、もともと道路であつたところを要役地所有者が通つていたというだけでは、継続の通行地役権を行使していたとはいえないのである。本件において、当審における証人小糸精太郎の証言によると、被控訴人が通行地役権を主張する部分は、もと映画館の通路であつたものを、被控訴人がそのまま通行に使つているにすぎないことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて、被控訴人が継続かつ表現の通行地役権を事実上行使してきたということができないことは明らかである(ある土地を材料置場として使うための地役権なるものがないことは前記のとおりである。)。被控訴人の右の主張も採用することができない。
三、前記の認定事実によると、鈴木ふくが旧三一番の五の土地を分割譲渡したため、三一番の一一の土地が袋地となつたのであり、したがつて、鈴木ふくは民法第二一三条第二項によつて、右三一番の一一(袋地)のため囲繞地である三一番の九、同番の一〇の土地を通行して公路に出る権利を有するにいたつたものといわなければならない。その袋地の所有権が、鈴木ふくから室田義明へ、同人から被控訴人へと順次移転するに伴ない、右の囲繞地通行権も順次承継されたものと解するのが相当である。したがつて、被控訴人は旧三一番の五の土地を通行して公路に至る権利を有するけれども、第三者である控訴人らの土地を通行することはできないわけである。(土地の所有者が、その土地の一部を譲り渡して袋地を生じた場合の通行権の問題については、(一)民法二一三条は譲り渡された土地と残つた土地との間の法律関係を定めたもの、すなわち通行される負担、通行する利益は土地所有権そのものに内在することになるという考え方と、(二)同法条は右譲渡の当事者間の人的な法律関係を定めたものにすぎないという考え方とが対立する。当裁判所は右二一三条はそのおかれている位置、その立法趣旨からみて、右両地そのものの利用の調整をはかつたものであり、したがつて(一)の説こそ正当であると考える。この前提を採用する以上、右両地の一方または双方に特定承継が起ることによつて土地所有権に内在するとされた負担や利益が消えてなくなるというようなことはとうてい理解することができない。
(新村 蕪山 高橋)