大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(ネ)298号 判決

そこで控訴人が競落による本件建物所有権取得をもつて被控訴人に対抗しうるか否かについて検討する。

昭和三三年一一月二〇日頃当時いわゆる建売業を営んでいた大工佐野一信は東京都江東区大嶋町六丁目九八番地家屋番号同町九八番の七木造木羽葺平家建居宅一棟建坪六坪二合五勺(旧建物)を他より買受けてその所有権を取得し、同年一二月二日その旨の登記を経由し、暫く同所に居住していた。この旧建物は終戦直後に建てられたいわゆるバラツクであつたが、佐野一信は翌三四年三、四月頃、その全部を取り毀したうえ、その敷地跡に、木造瓦葺二階建居宅一棟建坪五坪八合八勺二階六坪(本件建物)を新築所有した。本件建物はその建築材料の大部分が新規のものであつて旧建物の古材等はほとんど使用されず、その外観、構造、内部の模様等も旧建物のそれと全く異なるものであつた。その後佐野は本件建物を担保に訴外鳥海孝一から金員を借受ける交渉を重ねた末、同三四年一一月四日同人から金五〇万円を弁済期同年一二月一日と定めて借受けるとともに、この借受金債務の担保として同人のため本件建物に抵当権を設定する旨約した。ところで当時本件建物については未だ保存登記もなされず、旧建物に対する佐野のための前記所有権取得登記が従前どおり残つていたので、同人においてこれが登記済証を持参提示し、これを利用して右抵当権設定登記手続をなすべき旨申出でたところ、鳥海は右登記済証における不動産の表示と本件建物の実際とが異なることに気付きつゝも、司法書士よりかよな相違は間々ある旨告げられ、また佐野より金員の交付方をいそぎ求められるまゝ、右申出を認容し、こゝに右両名は右登記済証による抵当権設定登記申請手続を司法書士に委任した。その結果旧建物についての登記簿上に右抵当権設定登記がなされ、右抵当権の実行による本件建物の競売手続も右登記簿上の表示にもとづいて行われ、控訴人の本件建物競落による所有権取得登記もまた同じく右登記簿上に記入されるに至つた。

以上の認定事実によれば、旧建物は昭和三四年三、四月頃取り毀されて滅失し、その後に本件建物が旧建物と別個に新築されたものであつて、両者は、その所在場所を同じくするだけで建物としての同一性を全く欠いていること、それにもかゝわらず佐野の所有名義となつている旧建物の登記が流用され、これに、本件建物についての鳥海の抵当権設定登記および控訴人の競落許可決定による所有権取得登記がなされたものであることが明かである。ところで、かような場合には、本来旧建物の登記簿は滅失登記により閉鎖され、新築された本件建物についてその所有者から新たな所有権保存登記がなされたうえ、これに右の抵当権設定および所有権取得の各登記がなされるべきであつて、滅失した旧建物の既存の登記を流用してなすことは許されず、かように流用された登記は、本件建物に関する登記としては無効と解するのが相当である。けだし、旧建物が滅失した以上、その後の登記は真実に符合しないだけでなく、新建物についてその後新たな保存登記がなされて一個の不動産に二重の登記が存在するに至る等不動産登記の公示性をみだすおそれがあり、制度の本質に反するからである(最高裁昭和三八年(オ)第一一一二号同四〇年五月四日第三小法廷判決参照、なお、控訴人の引用する大審院決定は本件と事業を異にし適切でない。)

したがつて、本件建物につき、鳥海孝一のため抵当権が設定され、控訴人が右抵当権実行に基く競売手続において本件建物所有権を承継取得したことについてはその旨の適法な登記を欠くものというべく、佐野から矢沢を経て本件建物を譲受けた被控訴人に対しては、右所有権取得を対抗しえないものといわざるをえない。控訴人の本訴請求はこの点において失当である。

(奥野 萩原 真船)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!