東京高等裁判所 昭和39年(ネ)762号 判決
昭和二一年当時施行されていた旧農地調整法第九条ノ三第一号・第九条ノ二第二項・同法施行令第一二条第一項およびこれらにもとずく昭和二一年一月二六日農林省告示第一四号によつて、農地の金納小作料が「玄米一石当七五円」と定められたことは、当事者間に争いがない。しかるところ控訴人は、みぎ命令の措置が農地所有者のためにする何らの補償なしに行われたことは、憲法に違反すると主張して、その請求原因の前提とするから、まずこの点について考える。農地に関しての金納小作料およびその制限に関する前示の規定および小作料の額の法定に関するみぎの告示による措置が伝統の契約自由の原則および農地所有権の絶対に対する重要な制限の設定であることは、正に控訴人の主張するとおりである。しかし、憲法第二九条第二・三項の規定は、財産権の内容を公共の福祉に適合するように法律でこれを定めるものとするとともに、私有財産を公共のために収用または使用するときには、正当な補償を与える旨を定める。前記の小作料金納の制度および金納額の制限等は、みぎ憲法第二九条第二項の規定にいう財産権の内容の法律的規制にほかならず、憲法同条第三項の規定にいう補償を要件とする場合には当らないと解するのが相当である。もつとも、財産権の内容の法律的規制が甚しく強度であつて、それが各人に保障された権利を奪うに等しい場合には、憲法同条第三項の規定によつて補償を要するものと考える余地があるかも知れない。しかし小作料の額石当り七五円が従来の物納小作料に比し、かつ当時の一般物価に比し低廉であつても、小作料を全く否定し去つたに等しい程度ともいえないから、このような規制は、補償を要する場合に該当しないと認めるべきである。してみれば、前示告示による措置は、違憲であるとはいえない。しかるに、これに反し農林大臣のみぎ措置によつて控訴人が国に対し補償請求権を取得し、ないしは、農林大臣が故意または過失によつて違法に控訴人に損害を与えたとする控訴人の主張は、失当である。
(岸上 中西 室状)