大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)794号 判決

本間松次郎は昭和三〇年頃から被控訴人と共同で印刷の事業を経営し、昭和三二年七月頃からは同和興産株式会社という会社組織として右両名が常務取締役となり経営に参画していたところ、右共同事業の時代から右両名は事業の運営上、その業務に必要な紙、インキ等の材料の注文、その代金支払などのための手形の振出、代金受領証の作成などの事務について、一方が不在の場合などに備え、互に印章を貸し合つて各自が相手方に他方の名で書類の作成、手形の振出などを行うことを許容し、その限度で各自が相手方に直接他方の名を用いて事務を処理する代理権を授与していたものであるが、前記会社組織となつてからも右関係は継続し、被控訴人は自己が出張などで不在中の場合、その妻香に対し、松次郎から右会社の仕事の必要上印章の借用を求められた場合には、これに応ずるようかねて指示しておいた。ところが右松次郎は自己の個人的な用途である茶の仕入れ資金として控訴人から前記借入れをしたのであるが、その連帯保証人として右のような関係にある被控訴人の名義を利用するのが便宜と考え、その頃被控訴人が出張不在中の留守宅にその妻香を訪ね、「被控訴人に話してあるから被控訴人の実印を貸してもらいたい」と申し入れ、前記の事情から被控訴人の指示に従いこれに応じた右香から被控訴人の実印の交付を受けた。そして松次郎はこれを利用して目黒区役所より印鑑証明書(甲第二号証)の交付を受け、前記消費貸借について被控訴人名義の連帯保証人として公正証書作成等の委任状を作成してこれらを控訴人側係員に交付し、被控訴人が連帯保証人となることを承諾しており、自己がそのための代理権を授与されている旨申し述べたので、控訴人側はこれを信用して連帯保証契約を締結するに至つたものである。

右事実によれば、本間松次郎は被控訴人から前記事業の関係上授与された代理権を濫用し、これを踰越して自己の個人的債務のために本件連帯保証契約を締結したものであるが、右のように代理人がその目的をあかさなかつたにせよ本人から実印を預かり、これを用いて印鑑証明書の交付を受け、公正証書作成のための委任状も作成してこれを提出した場合には、その相手方たる第三者は特段の事情がないかぎり、代理人と称する者に当該行為につき代理権があると信ずるのは当然であつて、かつそう信ずるにつき過失があるということはできない。そして本件において控訴人側係員が松次郎に代理権があると信じたことは前記のとおりであり、また右説示の反対となるべき特段の事情は認められない。

(渡辺一 岡田 和田)

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