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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)12号 決定 1965年9月10日

抗告人 中野進(仮名)

相手方 倉田俊子(仮名)

右法定代理人親権者母 村山花(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を次のとおり変更する。抗告人は相手方に対し、本裁判確定の日の翌日から昭和四五年三月まで毎月末日かぎり一ヵ月金二、五〇〇円ずつ支払うこと。」との裁判を求めるにあり、抗告の理由は別紙記載のとおりである。

そこで、抗告人の主張を考慮して原審判の当否を検討する。

抗告人は、原審判は相手方の申立だけを一方的にとり上げた不公平なものであり、抗告人に支払いを命じた扶養料の金額は不当に高いものであると主張するが、記録を精査した結果は、決してそのようなものではない。すなわち、原審判は、たんに相手方側の言い分だけをとり上げているわけではない。調査官は、相手方の側を調査するとともに、抗告人およびその代理人と面接し、抗告人の居宅や勤務先に出向いて事情を聴取し、さらに抗告人やその妻君子の所得および納税に関する公文書による証明をとるなど手をつくしたうえで作成した報告書をしんしやくしているのである。原審の審判官がそのうえさらに抗告人本人を審問しなかつたからといつて、原裁判所の措置を片手落ちであると非難するのは当らない。

次に、抗告人は、村山花がその兄弟の事業を手伝つた報酬として一ヵ月一万円以上の収入をえているとか、あるいは村山花が兄弟の援助を受けて食費等の経費を必要としない実状にあるとかいうけれども、これは憶測の域を出ないものであり、裏付けの資料を欠いている。また、抗告人は、その一ヵ月の経費として、(1)九、〇〇〇円の家賃、(2)三口で合計三、五三四円の生命保険料、(3)約一万円の弁当等外食費、通勤交通費、交際費、煙草銭等を必要とするのに、原審判はこれらを考慮していないというけれども、(1)の点についていえば、抗告人一家の現住する家屋はかねて妻君子が美容院の経営のため使用しているものであるから、その家賃は、課税当局が昭和三七年度における同人の所得を二三万一、一八九円と査定するに当つて当然経費の一部に見込んでいるものと推定され、とくに抗告人においてこれを負担しなければならない事情は発見できないのであり、(2)についていえば、抗告人の主張を裏付ける資料がないばかりか、横浜市金沢区長の回答書によると、少なくとも昭和三七年度には抗告人に賦課すべき市民税額を査定するに当り生命保険料控除は全く行なわれなかつたことが認められるから、むしろ、抗告人は当時その主張の生命保険料を支払つていなかつたであろうと推察されるのであり、(3)についていえば、原審判は、抗告人に支払いを命じた扶養料の金額を算出する過程においてすでにその月収の一〇パーセントの金額を職業費として可処分金額から控除しているのであつて、その金額をこえて抗告人主張の金額を必要とすることを確認できる資料がない。さらに、抗告人は、原審判は、相手方と扶養関係のない君子の収入までも抗告人の収入と合算したうえでこれを基礎にして相手方に対する扶養料を算出しているというけれども、そのような事実のないことは記録をよく調べてみればわかることである。のみならず、抗告人と君子との間の子幸子の生活費までも抗告人だけの収入から支払うべきものとの前提に立つて、相手方の生活費を算出していることが認められるのであるから、抗告人の非難は全く当らない。

以上要するに、抗告人がその扶養料負担額は一ヵ月二、五〇〇円が相当であるとして言つているところはなつとくすることができず、記録に現われたすべての資料を考え合せると原審判の認定は相当であつて、これを取消すべき何らのかしも発見することができない。

本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 新村義広 裁判官 市川四郎 裁判官 吉田武夫)

抗告理由<省略>

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