東京高等裁判所 昭和39年(ラ)215号 決定 1965年1月19日
抗告人 鎌倉金蔵 外一名
主文
抗告人鎌倉金蔵の抗告を却下する。
原決定中別紙物件目録<省略>記載の(一)の物件に関する部分を取消す。
別紙物件目録記載の(一)の物件について本件競落を許さない。
抗告人桐ケ谷金正のその余の抗告を棄却する。
理由
第一、鎌倉金蔵の即時抗告について、
抗告人鎌倉金蔵は抗告状において競落人であると自称しているが、同人が本件競売の競落人でないことは本件競落許可決定により明らかであるし、記録を調べても、同人が競買人ないし民事訴訟法第六四八条所定の利害関係人であることを認むべき資料はないので、同人のした本件抗告は、抗告権のないもののした不適法の抗告と認めるほかなく、却下を免れない。
第二、桐ケ谷金正の即時抗告について、
桐ケ谷金正の抗告理由書は別紙の通りである。
抗告理由の一について、
本件記録中の競売及競落期日公告(第一八一丁)、公告掲示済通知書(第二〇〇丁)及び報告書(第三一五丁)によれば、本件競売期日の公告は昭和三九年二月二七日不動産所在地の市役所たる横須賀市役所の掲示板に、翌二八日執行裁判所の掲示板に夫々なされたことが認められ、競売調書(第二六二丁)及び競落期日調書(第二九六丁)によれば、みぎ公告通りに昭和三九年三月一七日に競売期日が、同月一九日に競落期日が夫々開かれて、原決定が言渡されたことが判るから、本件競売期日が公告の日より一四日以上経過していないという抗告人の主張は理由がない。
抗告理由二について、
本件記録中の登記簿謄本(第六五丁及び第七七丁)並びに鑑定人宮島半蔵の評価書(第一〇五丁)によると、競落された別紙物件目録記載の(一)の建物は、同時に競売に付されたが競買申出がなかつたため結局競落されなかつた横須賀市浦賀町七丁目二番の二、宅地九八坪四合三勺の土地上にあつて、債務者桐ケ谷金正が右土地建物を所有中、昭和三七年一〇月四日横須賀大和屋商事株式会社のため両者について夫々根抵当権を設定したことが認められる。従つて同会社の競売申立に基き競売手続が進行し、右建物が競落されるに至つた本件においては、右建物のために右土地に法定地上権が生ずることが明らかである。抗告人は右建物の最低競売価格の評価に当つて法定地上権を伴うことが考慮されていないと主張するので按ずるに、法定地上権は建物の従たる権利として、土地所有者の意向如何にかかわらず、建物競落人においてこれを取得するから、建物の最低競売価格を決定するに当つては、純建物価格に法定地上権の価格を算入して評価すべきものと解するのが相当であるところ、鑑定人石塚仲次郎の評価書(横浜地方裁判所横須賀支部昭和三八年(ヌ)第九号事件記録第七八丁)によれば、右建物は金二五五万四〇〇〇円(附属建物を含む)と評価されているが、その理由としては『建物は四〇年以上経過しているが、材料もよく、日当り等もよいので住宅としては好適の場所にある』というだけであつて、右の評価に場所的利益が加味されていることは疑ないものの、法定地上権を伴うものとしてその評価がなされたか否かは明らかでない。他方前記宮島半蔵の評価書によると、前記宅地は横須賀市内における一等地の住宅地であるが、その評価は底地(地上に建物があつて、借地権の負担のある土地)と同視されて金一四七万六四五〇円と評価されていることが推断される。而して住宅地の場合借地権と底地との価格の比率は通常六対四ないし七対三位に評価されているので、これを基準として計算してみると、前記の金二五五万四〇〇〇円という建物の評価額は法定地上権を伴うことを考慮し、これを加算して評価したものと認めることは困難といわざるを得ない。してみると原審が金二五五万四〇〇〇円という評価額を採用し、これを本件建物の最低競売価格として公告したことは、結局競売物件の評価を誤つて、正当に最低競売価格を評価しなかつたことに帰するから、競売法第三二条第二九条、民事訴訟法第六八一条第六七四条第六七二条第四号に該当し、右建物の競落はこれを許すべからざるものであつて、この部分に関する原決定は取消を免れない。
然しながらその他の部分については、記録を調査しても、原決定を取消すべき違法の点を発見できないので、抗告人桐ケ谷の本件即時抗告は、前記の限度で理由があり、その他は理由がないものとして棄却すべきである。
よつて主文の通り決定した。
(裁判官 岸上康夫 中西彦二郎 室伏壮一郎)
別紙 抗告理由書
一、本件競売期日の公告は公告を為したる日より十四日後にあらず。抗告人が昭和三十九年三月四日及五日の二度裁判所の掲示板を調べたが掲示されてなかつた。
二、本件の目的である建物とその敷地である競落されない土地はともに抗告人の所有であつて、右土地建物は共に抵当権設定登記が為されて居る、従つて本件競落建物の宅地については地上権の負担あるものとし、建物については地上権をも有する結果となり鑑定人は適正に評価すべきである。
しかるに鑑定人は法定地上権につき考慮なくして宅地は地上権なき更地として、また建物については地上権の伴わないものとして価額を評価したものである、仍つて宅地は不当に高く競落されず、建物は不当に安価に評価されたものと思料される。右鑑定の結果は最低競売価額の基礎たる資料に適せないものである。
右の評価に基き最低競売価額を定めて公告を為し競売手続が進められて競落許可決定をしたことは違法である。
右の事由により抗告する。