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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)437号 決定

抗告代理人は、「原決定を取消す。申立人の異議申立を却下する。申立費用は申立人の負担とする。」との決定を求め、別紙即時抗告理由書記載のとおり主張した。

本件記録及び添付の競売事件記録によれば、本件は、抗告人が申立外鈴木孝吉に対し金員の貸付をなすに際して、右債務担保のため、昭和三七年六月一六日相手方以倉喜美子との間に、同人所有の東京都杉並区阿佐ケ谷二丁目六三六番一四宅地一七坪四合三勺及び同所同番地家屋番号同町六三六番の三木造板葺平家建居宅一棟建坪七坪二合五勺を共同担保の目的とし、これに債権極度額金五〇万円、遅延損害金日歩九銭八厘とする第一順位の根抵当権設定契約を締結し、同月一九日その登記を経由したうえ、同月二一日右約定に基づき鈴木孝吉に対し金五〇万円を、弁済期日同年七月二〇日の約定で貸付けたところ、鈴木孝吉は右弁済期日を経過するも債務の弁済をしないので、昭和三八年八月一五日右根抵当権設定契約の基本契約を解除し、右貸付元利金の弁済を受けるために前記土地、建物に対する抵当権実行による競売を申立て、競売手続開始決定がなされたものであることが明らかである。

右競売事件記録に編綴された鑑定人松尾皐太郎作成の評価書、原審における以倉喜美子の審尋調書(第一、二回)の各記載によれば、右抵当権の目的とせられた家屋は、すでに昭和三五年頃に取毀されて現存せず、登記簿の記載のみが抹消せられずに残存しているにすぎないことが認められる。然しながら、右各証拠によれば、同番地の一四地上には家屋番号同町六三六番の一四木造セメント瓦葺平家建居宅一棟建坪一〇坪の相手方所有家屋が存在し、同家屋は右旧家屋を取毀した後その跡地の南側に新築されたものであつて、その建築の時期は昭和三五、六年中であることが窺われる。してみれば、前記根抵当権設定契約が締結せられた当時は、すでに右新築家屋は完成していたものであるから、外に特別の事情についてなにも認めることのできない本件では、当事者は現存する右新築家屋を目的として根抵当権設定契約を締結し、登記簿上は旧家屋の記載を流用してその登記をなしたものと認めるを相当とする。従つて、本件競売の申立は現存する右新築家屋を対象とするものと解するのが相当であつて、右登記簿上の記載は、取毀により滅失した旧建物の登記を利用したものとして無効と解すべきものとしても、新建物を目的とする根抵当権設定契約までも無効であると解すべき理由はないから、その申立は適法といわなければならない(もし登記が無効と解せられるならば、現存の新建物につき職権によつて各登記を経由したうえ競売申立登記の記入をなし、競売手続を進行することができるものというべきである。)。

原審がこの点に思をいたさず、単に、本件建物は昭和三五年頃取毀されて消滅し、現在の建物はその後に建築された別個のものであるとの一事により、本件競売の申立はその理由を欠くものとし、右抵当権設定契約、従つて本件競売申立の目的建物が右現在の建物であるかどうかについて判断することなく、右建物に関する競売手続開始決定を取消し、同建物に対する競売申立を却下したのは、違法といわなければならない。

よつて、右部分に関する本件抗告は理由があるから原決定中右関係部分を取消し、右部分については、なお上記の諸点について審理の必要があるから、これを原審に差戻し、なお、抗告人は原決定全部の取消を求めているけれども、原決定中申立人の異議申立を却下した部分については抗告の利益を欠くから、この部分に対する抗告はこれを却下し、主文のとおり決定する。

(村松 江尻 杉山)

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