東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)34号 判決
(争いのない事実)
一 原告が請求原因一から四において主張した事実、すなわち、
(一) 引用特許および本件特許の各登録されるまでの経過ならびに各特許発明の明細書の特許請求の範囲および図面の各記載
(二) 原告が引用特許の権利の持分の一部を他に譲渡したこと
(三) 被告が帰化によつて氏名を変更したこと
(四) 本件特許に対する無効審判の手続の経過および審決の内容の各事実は当事者間に争いがない。
(引用発明の技術内容)
二 そこで先ず、引用発明の技術内容についてみるに、その成立に争いのない甲第三号証の二の記載によると、引用発明は、従来この種の管体、すなわち、軟質合成樹脂管を基本管とし、これに編組その他の方法をもつて布管を被覆し、さらにその上に軟質合成樹脂層で被覆した管の被覆加工法においては、基本管の管形を保持するため、その内部に鉄棒を芯棒として挿入するという方法が用いられていたのに対し、その管形を保持するために、鉄棒の芯体に代えて、空気、水、油等の流体を圧入することとしたものであつて、これによつて、「圧入された流体が基本管内一杯に充満し、対圧的に空洞内を占拠しているので、やがて高温に遭遇して基本管体が熔融するとも、その熔融状態にある管体を、これと外装布管との間に挟持し、原形のまま次の冷却場所へ送り出されるから管形は崩れることなく安全に加工されるのである。しかも、この場合の挿入体は屈撓性の流体であるから管の捲収は自在で、いかなる長尺物でも加工ができる上に、鉄棒のときの如く挿入抜脱に何らの困難性もなく作業容易である。」という作用効果を得るものであることが認められる。
そして前記甲第三号証の二の特許公報に記載されたところを検討すると、引用発明は、「合成樹脂管を基本管とし、これに布管を被せた管に対し、さらにその上に加熱熔融合成樹脂を塗着し成層被覆せしめる」という方法による技術を前提とするものであると認められるから、これによつて製造されるホースの構成は内外層に合成樹脂の層、そして中間層に布管という三層からなるホースであること、そして、外層の被覆工程においては、内層に布管を被せたものを熔融合成樹脂槽(具体的実施例の表現による)を通すことによつて右槽内の熔融合成樹脂の熱によつて、内層に熱を与え、その出口において外層を被覆する工程を完了するという方法をとつていること、そして流体圧入の方法として実施例に示すところによると、被覆加工をする際に、ホースの一端を密閉し、他端を流体圧入用の機器に連結しながら行なう方法をとつていることが認められる。
(本件発明と引用発明との対比)
三 そこで、被告の本件特許発明を、右の引用発明と対比しながら検討すると、その成立に争いのない甲第二号証の二の記載によると、この両者は、本件審決も指摘する通り、布帛を被覆した軟質の合成樹脂管を基材として、この基材の内部に空気のような圧力媒体を圧入しその形態を保持しながら、外層となる合成樹脂層を成型することによつて管状体を製造する方法である点において共通していることが認められる。
しかしながら、本件発明においては、その内外層は中間層を通して三層一体とすることを目的としており、単に外層を中間層に塗着するというに止まらず、さらに進んで外層と内層とを融合着するということをそのねらいとし、その目的を達成するために、外層を被覆する工程において、押出機というそれ自体の熱を有するところを通過するにしても、それとは別に予熱工程を設け、押出機に入る以前において、内層の表面を加熱軟化させておくという工程を経ることとし、しかも、融合着の目的を達するために、中間層も「各種繊維の筒ネツト」を用い、中間層を通して内外層が一体となりうるものであることをねらつていること、しかのみならず、本件発明においては、内圧保持の方法としては、単に流体圧入用の機器に連結させておくというだけに止まらず、予め圧力媒体を圧入しておいて両端を封緘することによつて流体圧入用の機器との連結を断ち切るという方法を採用したものであることが認められる。
このように、本件発明も引用発明も、ともに、合成樹脂の内層、繊維の中間層および合成樹脂の外層の三層から構成されている強化ホースの製造法、ことに、その外層を形成する方法に関するものであるところ、原告は、流体圧入の点を強調するので、この点についてみると、両者とも、その外層を形成するについて、内管に流体を圧入しておいて所要の加工を行なう点において共通しており、これによつて加工時における管形保持の作用すなわち歪曲、変形を防ぐ作用と、外層を(中間層を被せた)内管に密着させる作用、すなわち、各層の間に気泡その他の発生を防ぎ、外層剥離の欠陥を防止する作用を行なうものであるから、流体を圧入するという技術に関する限り、同一の技術思想に基づく発明であるということができる。
しかしながら、本件発明においては、流体圧入の技術手段を用いているだけではなく、さらに、
(ア) 適当な長さに切断した内管に圧力媒体を充填封緘して加工工程に乗せるという手段による当初の工程
(イ) この内管に中間層を施したものをヒーター内を通して、予め内管の表面を加熱軟化させておくという手段による予熱工程
(ウ) 以上の二つの工程を経たものを押出成形機のヘツドを通して外層を形成すべき外管を套嵌合着するという手段による工程という技術手段を用いており、これら(ア)から(ウ)の三つの技術手段はいずれも、引用発明の明細書には記載されていない手段である。
しかも、以上の技術手段は、いずれもこれによつて、流体圧入の技術手段とは別個の作用効果を挙げ、この種強化ホースを製造する上に、いくつかの利点をもたらすものである。
すなわち、前記(ア)の技術手段によつて、作業時間の短縮その他作業上の利便をもたらすだけでなく、消費時までの管形保持の作用効果を有するのであり、また(イ)および(ウ)の各技術手段によつて、内管の表面を加熱軟化させたうえ、外管を套嵌するため、前記流体圧入の技術手段と相俟つて内外層の融合着がより効果的に均一かつ合理的に行なわれるものである。
これを引用発明と対比すると、(ア)の点については、引用発明においてはその具体的技術手段について何らの指定もなく、その図示するところによれば、内管の一端を閉じるとともに他端をタンクに連結して空気を圧入しながら加工することになつており、前記(ア)の技術手段について示すところはない。
また、更に(イ)および(ウ)の点については、引用発明は、布管を被せた内管を、熔融した樹脂の中を通すことによつて、外層を形成すべき合成樹脂を塗着するという手段をとるものであつて、外層を形成する加工工程においても両者はその被覆手段において相当の相違を持つ別個の構成をとつているものであつて、この点は殊に両者を区別すべき重要な相違点と認められる。
以上の各点を綜合すると、本件発明は、引用発明と流体圧入という基本的な考え方において共通するところがあるとはいえ、その加工工程における技術手段においては、本件発明は、引例発明には見られない別個の手段を用い、しかもこの手段によつて別個の作用効果をもたらしていることが認められるので、このような相違点がある以上、本件発明をもつて引例発明と同一発明とすることはできないといわなければならない。
そこで、引例発明に示された技術内容が本件発明の技術内容を包含するものと解すべきかどうかについてみるに、前述のように、少くとも表現自体からは引例発明に示されていない技術内容の記載があるし、実質的にみても、右の引例発明に示されていない技術内容にはそれなりの別個の作用効果を有するものであることが認められ、当然に引例発明の有する作用効果と同一視すべき範囲に含まれるとは解釈することはできない。
(むすび)
四 結局、本件発明は引用発明と同一の発明ということはできないので、これと判断を同じくする本件審決の取消を求める原告の請求は理由なきに帰するので、これを棄却することとする。
〔編註〕 本件に関する図両は左のとおりである。
別紙(一) 本件特許発明の図面
<省略>
別紙(二) 引用特許発明の図面
<省略>