東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)60号 判決
一 特許庁における本件審判手続の経緯、本件登録実用新案の要旨、その登録出願の日および本件審決の理由の要旨が請求原因第一項ないし第三項のとおりであることは、当事者間に争いがない。したがつて、本件においては、審決の理由中に示された引用例が、本件登録実用新案の出願前公然知られていたかどうかが唯一の事実上の争点である。
成立について争いのない乙第一号証の一ないし九、同第二号証の一ないし一五、同第三号証の二、三および証人山口陸次郎、同星田錦三郎の各証言に検乙第一号証を合わせ考えると、訴外星田錦三郎が少くとも昭和二五年頃から数年にわたり大阪市東住吉区において、本件登録実用新案のものと同様な構造(<省略>字型針金を棚板金枠の両側のどの位置に枢着するかについては、両者の間に差異が認められるが、右針金の取付位置を金枠両側の中央に厳密に限定することにより奏すべき効果は、本件登録実用新案の説明書(成立に争いのない甲第三号証)中に示されておらず、ただ、右針金を棚板硝子の周縁にわずかの空隙を存し沿うように回動させることができ、かつ、この針金を棚板硝子とT字形になるように回動した場合、これにネクタイ等を掛けうればよいのであるから、本件登録実用新案において、右枢着位置が金枠の中央部であるというのは、厳密な中央を指すものではなく、鏡枠に対する棚板硝子の取付部に近くなつても少しも差支えなく、この点について、右以上に限定的意味があるとは解されない。)を有するハンガー針金付の柱掛鏡枠を多数作り、同訴外人から同市に本店を有する株式会社吉本鏡店に納入し、同会社においてこれに鏡および棚板硝子を装着して、本件引用例である柱掛鏡を完成し、一般に販売していたことが認められる。検乙第一号証の柱掛鏡枠については、鑑定人下平三郎の鑑定の結果および証人星田錦三郎の証言によれば、針金部分を含めその鏡枠は必ずしもそのすべてが同じ金属材料によつては作られていないことが認められるけれども、鏡枠用部材製作組立の過程上そのようなことも十分ありうることが、同証人の証言により認められるから、前記認定の妨げとはならない。また、原告坂幸市本人尋問の結果中、株式会社吉本鏡店の柱掛鏡は本件登録実用新案の実施品を模倣し売り出したものに過ぎない旨の陳述部分は、にわかに採用できないところであるし、本件登録実用新案のような柱掛鏡がその出願前にあつたことは知らない、自分がはじめて考案したものと思つている旨の陳述部分も、前示認定を覆えすに足りない。その他以上の認定を左右するに足りる資料はない。したがつて、引用例は、本件登録実用新案の出願前公然知られていたものと認めるのが相当である。
二 右のとおりである以上、本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。
本件登録実用新案の柱掛鏡の斜面図、断面図
<省略>